KDDIと椿本チエインの合弁会社であるNexa Wareは8月22日、物流倉庫内のデータを活用して物流2024年問題や労働人口不足解決の支援を目指す、物流倉庫向けデータ分析サービス「Nexa Warehouse-Optimizer」の提供を開始することを発表し、説明会を開いた。KDDI物流センターにおいて先行的に実施した実証実験では、約1.4倍の作業効率を向上したという。

KDDIがAI時代に打ち出したプラットフォーム「WAKONX」

同サービスは、KDDIが5月に発表したAI時代のビジネスプラットフォーム「WAKONX(ワコンクロス)」の枠組みの中で提供する。WAKONXとは、KDDI VISION 2030「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会を作る」の実現に向けて、企業のデジタル化を支援するというコンセプトから生まれた新ブランド。

  • WAKONXの概要

    WAKONXの概要

WAKONXでは、各業界に共通する課題に対して「協調」して課題解決のための共通のフレームを構築し、as a Serviceモデルで提供することで各社の初期投資の低減を図る。他方で、「競争」領域において顧客各社の強みや付加価値をさらに拡大するための計算基盤やソリューションを提供する。

注力してソリューションを展開する領域について、KDDIは「モビリティ」「リテール」「ロジスティクス」「ブロードキャスト」「スマートシティ」「BPO(Business Process Outsourcing)」を挙げている。Nexa Warehouse-Optimizerは、このうちロジスティクス領域のアセットに相当する。

KDDI ビジネス事業本部 プロダクト本部 次世代ビジネス開発部長の中島康人氏は、今回ロジスティクス領域のサービスを打ち出した背景について、「ロジスティクスは複数の業界に関わることができる領域。WAKONXの中でロジスティクスを最初に手掛けることによって、例えば医療や食品など、幅広い業界の流れがつかめると考え、初期段階でロジスティクスのサービスを発表した」とコメントしていた。

  • KDDI ビジネス事業本部 プロダクト本部 次世代ビジネス開発部長 中島康人氏

    KDDI ビジネス事業本部 プロダクト本部 次世代ビジネス開発部長 中島康人氏

物流拠点全体の効率化を支援する「Nexa Warehouse-Optimizer」

Nexa Warehouse-Optimizerは、倉庫内のデータを分析して作業全体の効率化を支援する。人員、作業量、作業時間を考慮して各作業員のシフトを自動化するほか、注文残数や進捗データから出荷作業完了時間を予測する。これらの情報はWebダッシュボードで可視化可能。

  • Nexa Warehouse-Optimizerの概要

    Nexa Warehouse-Optimizerの概要

昨今多くの場面で取り上げられる物流の2024年問題の一つに、ドライバーの荷待ち時間がある。平均すると、1運行当たり1時間34分の荷待ち時間が発生しているとも試算されている。荷待ち時間が発生する原因として、荷主企業の物流倉庫業務の遅延に加え、出荷作業の完了時間を正確に算出できずドライバーに対し正確な時間を通知できないことが挙げられる。

こうした課題に対し、Nexa Warehouse-OptimizerはKDDIグループのフライウィールが提供するデータ活用プラットフォーム「Conata」を用いて、倉庫内に設置されたマテハン(マテリアルハンドリング)やロボット、WMS(倉庫管理システム) / WES(倉庫運用管理システム) / WCS(倉庫制御システム)などのデータを収集し、分析する。

分析結果に応じてKPIや作業フローを可視化し、倉庫内の現場状況に応じて作業員のシフトを自動生成する。倉庫全体の人員配置も最適化可能なため、倉庫オペレーション全体の効率化に貢献するという。

さらに、可視化されたシフトや作業工程に対し、当日の稼働状況に応じた完了時刻を予測する。ドライバーへの荷物引き渡し時間に間に合わないことが予測される場合には、アラートを発出し、以降の作業についてシフトの修正が可能。これにより作業の遅延を予防し、ドライバーの荷待ち時間削減を図る。

  • 作業フロー可視化と終了時刻予測の例

    作業フロー可視化と終了時刻予測の例

  • 作業員のシフトと作業内容を自動で作成する

    作業員のシフトと作業内容を自動で作成する

同サービスの導入に際し、倉庫システム基盤の改修は最低限のみでよく、API(Application Programming Interface)などの追加開発は不要とのことだ。最短で2週間で導入可能だという。また、データの分析のみにとどまらず、マテハンの導入や運用監視まで広く支援するとしている。

まるで「魔法」のようなKDDI物流センターを見学

Nexa Warehouse-Optimizerの説明会と合わせて、KDDI物流センター(神奈川県 相模原市)がメディア向けに公開された。同施設はスマートフォンなど機器メーカーと、東日本エリアのauショップおよびユーザーをつなぐ拠点として稼働している。1日当たりそれぞれ約8万点の入出荷に対応している。

2022年5月からロボットを導入しており、人手作業を介する出荷工程について、約30%の効率化に成功したとのことだ。

下の写真は、ユーザー向けに配送する機材を梱包している様子。配送用の段ボール箱にコードが付与されており、箱に入れる資材とひも付けられている。箱に入れるべき資材は作業員手元のPC画面に表示される。段ボール箱に入れる際には、適切な箱の番号の扉だけが開くようになっているため、誤って別の箱に入れてしまう心配が無い。

  • KDDI物流センター
  • 資材を取り出す棚の番号が自動で指定される

    資材を取り出す棚の番号が自動で指定される

さらに驚くべきロボット活用は、この作業員の元まで必要な資材を運んでくる工程だ。AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)が倉庫内を移動し、必要な資材が入った棚を作業員の元へと運ぶ。そのため、作業員が倉庫内を移動して探し回る必要がないのだ。無人のまま棚だけが縦横無尽に動き回る様子は、さながら映画に出てくる魔法魔術学校の設備のようだった。

まるで魔法のような倉庫内の棚移動

  • KDDI物流センター、端まで約170メートル

    KDDI物流センター、端まで約170メートル

  • KDDI物流センター