東北大学は8月21日、緑茶のカテキン成分の一種である「エピガロカテキン-3-ガレート」(EGCG)が、主要な歯周病関連細菌の代謝を抑制することで、増殖抑制と死滅を誘導することを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大大学院 歯学研究科 口腔生化学分野の髙橋信博教授、同・鷲尾純平准教授、同・安彦友希助教、同・樋口真由大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、口腔および頭蓋顔面科学に関する全般を扱う学術誌「Archives of Oral Biology」に掲載された。

  • 緑茶に含まれるカテキンの種類

    緑茶に含まれるカテキンの種類(出所:東北大プレスリリースPDF)

緑茶に含まれるカテキンは、抗菌作用、抗がん作用、抗酸化作用など、多くの生物学的機能を持つことが報告されている。緑茶のカテキンにはEGCG以外にも、「エピカテキン」、「エピガロカテキン」、「エピカテキン-3-ガレート」があるが、緑茶に最も多く含有されるのがEGCGであり、抗菌効果が一番強いこともわかっている。

  • ディスク拡散法によるEGCGに対する感受性試験の例

    ディスク拡散法によるEGCGに対する感受性試験の例(増殖抑制試験)(出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームは先行研究により、緑茶と同等濃度のカテキンは、う蝕関連細菌(ストレプトコッカス属)に対し抗菌効果を示すこと、さらにフッ化物とカテキンを組み合わせて使用することで相乗効果が生まれ、より効果的にう蝕を予防できる可能性があることを確認していた。その一方で、歯周病関連細菌に関する研究はこれまでにいくつか報告があるものの、研究によって実験条件やEGCGの使用濃度が異なっているなど、厳密な嫌気環境のもと、同一条件で複数の細菌種を比較・検討した報告はなかったという。

そこで今回の研究では、主な歯周病関連細菌に対するEGCGの殺菌、増殖抑制、代謝活性抑制、菌体凝集の4つの作用について調べ、代表的なう蝕関連細菌「Streptococcus mutans」と比較検討することで、EGCGの抗菌効果を客観的に検証・評価することにしたという。

今回の研究で対象とされた主な歯周病関連細菌は、以下の5種類。

  1. Porphyromonas gingivalis
  2. Prevotella intermedia
  3. Prevotella nigrescens
  4. Fusobacterium nucleatum
  5. Fusobacterium periodontium

そしてEGCGが、これらに対して強力な殺菌効果を持つことが確認されたとした。具体的には、2mg/mlのEGCG溶液と4時間共存させると、すべてが殺菌されたとし、一方のS.mutansに対しては、生存数を約40%減少させるに留まったとした。

さらに、ディスク拡散法によるEGCGに対する感受性試験において、歯周病関連細菌はS.mutansよりも増殖抑制効果が高く、特にPorphyromonas gingivalisとFusobacterium nucleatumとFusobacterium periodontiumに対して高い効果を示したという。

次に、細菌の代謝活性抑制作用を示す指標である「50%阻害濃度」との相関が調べられた。すると、EGCGが細菌の代謝活性を抑制することが判明。その結果として、増殖が抑制されたことが推察された。これまでに研究チームはEGCGがう蝕関連細菌の菌体凝集を促す作用を持つことを確認していたが、一部の歯周病関連細菌においても同様の効果があることが確かめられたという。これは細菌が唾液などに浮遊している時に、EGCGが細菌を凝集・除去し、口腔バイオフィルム(プラーク)の形成・成熟を阻害する可能性を示すとした。

  • EGCGによる増殖抑制と代謝抑制の相関関係

    EGCGによる増殖抑制と代謝抑制の相関関係(出所:東北大プレスリリースPDF)

以上の結果から、EGCGは「代謝を抑制することで、増殖抑制と死滅を誘導し、さらに菌体凝集によって口腔内からの細菌の除去を促進する」という抗菌効果を示す可能性が解明された。

  • 菌体凝集試験の例

    菌体凝集試験の例(出所:東北大プレスリリースPDF)

また、これらの歯周病関連細菌に対するEGCGの殺菌・増殖抑制作用は、S.mutansなどのう蝕関連菌よりも低濃度で効果を示すことを確認。その理由として、う蝕関連菌の多くがグラム陽性菌で厚い細胞壁に覆われているのに対し、歯周病関連菌はグラム陰性菌で細胞壁が薄く、EGCGによる障害を受けやすいなどの可能性が考えられるが、その詳細なメカニズムについては今後検討する予定とした。

  • 分光光度法による菌体凝集試験の結果

    分光光度法による菌体凝集試験の結果(出所:東北大プレスリリースPDF)

なおS.mutansにおいてEGCGは、糖取り込み酵素系である「ホスホエノールピルビン酸ホスホトランスフェラーゼ系」に結合することで、糖の取り込みを阻害し、代謝活性を抑制することが明らかにされている。歯周病関連細菌においても、EGCGが代謝基質取り込み系を阻害している可能性があるが、その詳細なメカニズムについても今後の検討予定としている。

ちなみに今回の研究では、浮遊状態の歯周病関連細菌を用いて実験を行っているため、形成されたプラークやその形成過程に対する効果については現時点で不明だという。プラークは多様な細菌種からなる複雑な構造を持ち、形成過程も複雑であることから、今後、複数の細菌種からなるバイオフィルムモデルでの効果や実際の口腔内での効果を確認する必要があるとしている。