広島大学は8月20日、甘味カフェイン水の自由飲水投与により、普段夜行性のマウスが昼行性になるくらい、体内時計が大きく遅れてしまうことを発見したと発表した。
同成果は、広島大大学院 医系科学研究科の田原優准教授、同・丁靖葦大学院生、同・柴田重信特命教授らの研究チームによるもの。詳細は、食品科学と技術に関する全般を扱う学術誌「npj science of food」に掲載された。
生活リズムに大きく関係するのが、体細胞1つ1つで機能している24時間を計る生体システム体内時計。この体内時計が乱れると、QOLの低下だけでなく、生活習慣病などの疾患リスクにもつながる。そうした中、研究チームは「食べるタイミング」を考える学問の「時間栄養学」を立ち上げ、体内時計を調節する栄養成分の探索を行ってきた。そしてマウスを用いた動物実験で、覚醒作用を引き起こす成分として知られるカフェインの慢性的な投与が、体内時計の周期(1日の長さ)を延ばすこと、夕方のカフェイン投与が体内時計の遅れをもたらすことを明らかにしてきた。
カフェインの摂取は、心血管疾患や糖尿病、死亡率の低下との関連が疫学研究で示されている一方で、中毒性や、睡眠、QOLの低下との関連も指摘されている。また、生活リズムが夜型な人(遅寝・遅起き)は、朝型な人に比べて、カフェインの摂取量が多いという調査結果もある。さらに現在では、カフェインの苦味を抑えるために甘味を付けたコーヒー飲料や甘味カフェインを含むエナジードリンクが多く売られている。ところがこれらは、特に若者において、アルコールやタバコ、薬物などの依存リスクを上げる可能性があるという。そこで研究チームは今回、甘味カフェイン飲水による体内時計や活動リズムの変化を解明することを目的として、マウス実験を行うことにしたとする。
今回の研究では、まず0.1%カフェイン+1%スクロース水(または+0.1%サッカリン水)の自由飲水投与が行われた。すると、マウスの活動開始時刻と終了時刻が有意に遅れたとする。これらの変化は、低濃度のカフェインや甘味水のみでは見られなかったという。また、甘味を付けることによるカフェイン水の飲水量は変化せず、水に比べて飲水量は減ったままだったとした。マウスによっては、活動リズムの遅れだけでなく、26~30時間の長周期リズムが見られる個体もあり、それらの活動リズムは恒暗条件下でも継続することが確認された。
次に、マウスへの甘味カフェインの投与が止められた結果、マウスは通常の明暗環境に合った夜行性の活動リズムを示したという。この結果から、中枢時計はカフェインの影響を受けずに明暗環境に合った時刻を維持している可能性が考えられたとする。また、今回の研究と似たような長周期の活動リズムの出現は、覚醒剤であるメタンフェタミンの飲水投与でも報告されていた。そこで、恒明条件下、中枢時計の破壊実験、カフェインの急性投与などの実験が行われた。すると、甘味カフェインによる活動リズム変化は、中枢時計非依存的であることが示されたとした。
以上の結果から、明暗環境に合った中枢時計と、甘味カフェイン飲水による長周期リズムが生体内で混在することで、末梢臓器に混乱が起きていることが予想されたという。体内時計は時計遺伝子によって駆動される分子時計によって制御されていることから、研究チームが開発した時計遺伝子を生物発光で撮影する測定方法を用いて、甘味カフェイン飲水により活動リズムが後退したマウスの末梢臓器の時計が計測された。その結果、時計遺伝子発現リズムの振幅低下、臓器間の位相の乱れが起きていることが見出されたとする。
今回の研究は、カフェインがマウスにとっても苦いことから、砂糖を混ぜることでマウスも沢山飲むのではないかという発想から始まったというが、実際には飲水量は増えず、それにも関わらず、今まで見られなかった活動リズムの大きな後退が起きたという。メタンフェタミン、カフェイン、そして甘味料は、脳内報酬系であるドーパミン神経を活性化させる。研究チームでは今後、ドーパミン神経に着目し、長周期の活動リズムの出現メカニズムに迫りたいと考えているとした。
厚生労働省によれば、1日400mg以上のカフェイン摂取、夕方以降のカフェイン摂取は、夜の眠りに影響しやすいことが指摘されている。今回の研究結果は、カフェイン摂取により、夜眠れなくなり、遅寝・遅起きな生活リズムになってしまう可能性が示唆されるだけでなく、カフェイン飲料への甘味の追加が、さらにその影響を悪化させることを示す結果と考えるとした。一方で、カフェインは体内時計の調節効果を強く持つことから、ベストな摂取タイミングを検討することも今後進めていくとしている。