世界貿易センタービル「新本館」の存在感、羽田直結を生かし、新たな日本の「玄関口」として

東京・浜松町が生まれ変わろうとしている─。丸の内・大手町や渋谷、品川に比べて、開発が取り残されがちと見られていた浜松町だが、街のシンボル、世界貿易センタービルディング本館の建て替えが進み、姿を変えようとしている。従来からのオフィスや商業施設だけでなく、観光を促進する施設やカンファレンス、さらには日本初進出の最高級ラグジュアリーホテルが入るなど、内外の人々に「日本の玄関口」としてアピールする施設となる。気になる今後は─。

交通の要衝・浜松町の潜在力を掘り起こす

「世界の激しい都市間競争の中で、この浜松町が『日本と世界をつなぐ〝一歩目〟』となり、これまで以上に多様な方々が集まって交流し、刺激的で賑わいのある場所に生まれ変わろうとしている」─こう話すのは、世界貿易センタービルディング取締役開発企画部長の大志万(おおしま)延也氏。

 東京・浜松町で進行中の「世界貿易センタービルディング本館・ターミナル」の建て替えプロジェクトの全容が、ついに見えてきた。

 浜松町駅西口エリアでは、世界貿易センタービル本館・ターミナルと、2021年竣工の南館が立地するA街区、18年竣工の日本生命浜松町クレアタワーが立地するB街区、みなと芸術センター、住宅、オフィスが立地するC街区と、多種多様な機能を整備する再開発が進行中。

 その中におけるメインプロジェクトともいえる世界貿易センタービル本館の建て替えでは、地上46階、高さ約235メートルという複合ビルが整備される。27年に一部開業を迎え、以降各施設が順次開業していく。

 ターミナルも含めた機能として、オフィス、アトレが運営する商業施設、ワールドメディカルセンター、カンファレンス、観光プレ体験施設、そして日本初進出のラグジュアリーホテルが入るが、浜松町を改めて日本の「玄関口」とする意図が見える。

 この開発とともにJR浜松町駅の整備も進む。「ステーションコア」と呼ばれる吹き抜け空間を整備し、3階はJRとモノレール、2階はタクシーとバス、1階は地下鉄大門駅と駐車場といった形で、全ての街区がフラットに接続され、最短で全ての乗り物につながるようにアクセス性を大幅に向上させる。さらに、東京モノレールの駅舎もリニューアル。

 浜松町は、3駅5路線、バス、タクシーなど様々な交通機関が乗り入れ、都内各所の他、羽田空港へのアクセスという意味でも重要な交通の要衝で、東京都内全体を見渡しても「扇の要」(世界貿易センタービルディング開発企画部次長・荒川和樹氏)と言える。ステーションコアの整備で、この機能をさらに高めることを狙う。

 そして、これまでの浜松町になかった機能として、前述の通り日本初進出のラグジュアリーホテルが挙げられる。今回は東京建物との共同事業で、世界的ホテルグループであるアコーホテルズ(フランス)の最高級ラグジュアリーブランド「ラッフルズ」が日本に初めて進出、2028年に「ラッフルズ東京」の開業を予定している。

「高層階のホテルからは東京湾や増上寺、東京タワーなどの素晴らしい景観が望め、東京の歴史と文化を体感できる浜松町の地で特別な滞在価値を提供できる」(東京建物常務執行役員ホテル事業部長・高橋浩氏)

 近年、インバウンド(訪日外国人観光客)が多く来訪する状況が生まれているが、他の先進国に比べて日本には「5つ星ホテルが不足している」(東京建物ホテル事業部事業グループグループリーダー・龍満(りゅうまん)直人氏)という課題が指摘されてきた。国際間の旅行をする外国人が日本を訪れる機会が増える中、東京の「国際競争力」向上の意味においても、東京の「玄関口」を担う浜松町にラグジュアリーホテルが必要とされたということ。

 宿泊料金は現時点で未定だが、「東京の他の最高級ラグジュアリーホテルをベンチマークしていく」(高橋氏)方針。

 また、近隣では東急不動産の「東京ポートシティ竹芝」(20年竣工)が立地する竹芝地区、野村不動産の「ブルーフロント芝浦」(S棟25年竣工、全体30年度竣工)が立地する芝浦地区の再開発と連携し、一体感のある街づくりを目指す狙いで17年に「三地区連絡会」を立ち上げ、活動している。特に野村不動産とは事業の進捗が重なることもあり、「情報を共有しながら、浜松町エリア全体を盛り上げていくように、連携しながら活動している」(大志万氏)

 世界貿易センタービルは1964年、東京商工会議所の呼びかけで、日本の大企業約140社が結集して設立。現在も日本政策投資銀行や日本製鉄、鹿島、東京ガス、みずほ銀行といった企業が大株主として名を連ねる。

 日本の貿易振興を目的とした初代ビルは1970年に竣工。完成当時は「東洋一」の高さを誇る超高層ビルとして、浜松町のシンボル的存在だった。その存在が改めて「日本の玄関口」としての機能を備えて生まれ変わるのが今回の建て替え。

「エリアの歴史、文化、自然は山手線の中でも他にない。ビジネス客だけでなく観光客の皆さんにも、日本の魅力を感じていただける場所。それを再発見していただきつつ、全体エリアをブランドとして盛り上げていきたい」と大志万氏。

 不動産市場分析が専門のニッセイ基礎研究所主任研究員・佐久間誠氏は「オフィス市場は調整局面を脱したという感触が強まっている。27年の市況は見えないが、供給が少ない時期でタイミングは悪くない。浜松町エリアは日本を代表するウォーターフロントとして、今後改めて発展を遂げていくのではないか」と指摘する。

 近隣ではJR東日本が高輪ゲートウェイ駅で街を一変させる開発を進めているが、競合というよりは一体のエリアとして今後捉えられて、競争・協調しながらの発展が見込まれている。