理化学研究所(理研)は8月15日、さまざまな生命現象やがんや免疫不全などの疾患に関与している「DNAメチル化」を制御する仕組みの一端を解明したと発表した。

同成果は、理研 開拓研究本部 眞貝細胞記憶研究室の新海暁男上級研究員、同・志村知古テクニカルスタッフI、同・福田渓客員研究員、同・眞貝洋一主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、核酸に関する全般を扱う学術誌「Nucleic Acids Research」に掲載された。

  • 同複合体によるDNAメチル化制御の仕組みの概要図

    同複合体によるDNAメチル化制御の仕組みの概要図(出所:理研Webサイト)

DNAメチル化とその制御機構を解明することは、生命現象や疾患の理解につながると考えられている。そして、その制御を司っていると考えられてきたのが、「HELLSタンパク質」と「CDCA7タンパク質」の複合体である「HELLS-CDCA7」(以下、同複合体)。しかし、その分子機構が不明だったことから、研究チームは今回、2種類あるDNAメチル化のうち、両側鎖がメチル化されているDNAが複製される際にできる、メチル化されていない片側(新生)鎖がメチル化される「DNA維持メチル化」の制御に対し、同複合体がどのように関与しているかを解明することにしたという。

  • ヒト由来CDCA7タンパク質の機能

    ヒト由来CDCA7タンパク質の機能。これまで発見されている4種類のCDCA7のICF変異体のうち、今回の研究では3種類のCDCA7タンパク質のICF変異体(R274C、R274H、R304H)が作製され、主としてR274C変異体の性質が調べられた(出所:理研Webサイト)

CDCA7のC末端側には「ジンクフィンガードメイン」(ZnF)と呼ばれる領域が、中央部にはα-ヘリックス構造を形成していると予測される領域があり、免疫不全の一種の「ICF症候群」では、ZnF内に変異(ICF変異)がある。そこで、HELLSの活性化に対するCDCA7の各領域の機能の解明が試みられたところ、中央部領域がHELLSの結合と活性化に重要であること、N末端の領域が活性を負に調節していることが判明。さらに、ZnFが欠損すると、ヒストンが片側方向に偏って移動していたのが、両方向に移動するように変化する傾向が観察された。この領域はヌクレオソームまたはDNAの正確な認識に関与していることが示唆されるという。

DNAは、同複合体のATP加水分解活性を促進することから、次に、同複合体のATP加水分解活性に影響を及ぼすメチル化DNAが調べられた。

  • 各種同複合体のATP加水分解活性に及ぼす各種DNAの影響

    各種同複合体のATP加水分解活性に及ぼす各種DNAの影響(出所:理研Webサイト)

すると、HELLS-野生型CDCA7は、片側鎖だけがメチル化されている「ヘミメチルDNA」の存在下で最も高いATP加水分解活性を示したという。一方、CDCA7のC末端ZnFを欠失させた場合と、ZnF内に変異を持つICF変異CDCA7の場合(以下、(1))では、どのDNAの存在下でも同程度のATP加水分解活性を示したとする。他のICF変異体を用いた場合も(1)と同様の結果だった。

続いて、CDCA7のDNA結合活性が調べられると、上述の3種類のDNAのうち、野生型CDCA7は、ヘミメチルDNAに強く結合したが、ICF変異CDCA7ではいずれのDNAに対しても結合が認められなかったとした。

さらに、CDCA7とHELLSの細胞内における局在を免疫染色を使って調査。マウスES細胞で調べた結果、CDCA7、HELLS共にある頻度で、染色体のセントロメア(動原体)と隣接する「ペリセントロメア領域」に局在していたほか、両タンパク質共に、同領域のDNAが複製するタイミングである細胞周期のS期中~後期にある細胞で、同領域への局在が観察される割合がピークを迎えることが確認された。

最後に、Cdca7遺伝子をノックアウトしたマウスES細胞に、野生型CDCA7またはICF変異CDCA7(以下、(2))を発現させ、それらの細胞内局在が調べられた。その結果、野生型CDCA7は、複製が進行しているS期中~後期のペリセントロメア領域に局在しており、同じタイミングで同領域にHELLSも局在していた。一方、(2)は、細胞核内に局在していたものの、同領域への局在は認められず、HELLSの同領域への結合もほとんど認められなかったとした。さらに、ヘミメチルDNAの量を増やすと、CDCA7、HELLSとも同領域への局在と、その強度がさらに高進することが判明した。

  • 各種CDCA7の、各種DNAへの結合

    各種CDCA7の、各種DNAへの結合。CDCA7とDNAを混合しゲル電気泳動が行われた。DNAにCDCA7が結合すると(非結合に相当する)DNAのバンドが薄くなり、上部に現れる。野生型CDCA7はヘミメチルDNAに強く結合することがわかる(出所:理研Webサイト)

以上の結果より、同複合体は、CDCA7のC末端ZnFによるヘミメチルDNA認識を介して、DNA複製の際に形成されるヘミメチルDNAに集積することが解明された。このことから、HELLSの作用によってヒストンが移動し、そこに、DNA維持メチル化酵素がDNAに誘導され、ヘミメチルDNAが順次メチル化されることが考えられるとしている。

  • マウスES細胞におけるCDCA7、HELLSの局在

    マウスES細胞におけるCDCA7、HELLSの局在(出所:理研Webサイト)

今回の研究成果で明らかにした同複合体のDNAメチル化制御の仕組みは多くの生物に共通していると考えられ、その普遍性から生命現象の理解に貢献するとが期待できるという(実際に研究チームは、植物も同様の仕組みを持つことを確認済み)。研究チームは今後、新規DNAメチル化への関与など、同複合体の性質をさらに詳細に解析し、DNAメチル化制御のメカニズムを明らかにしていくとしている。