東京医科歯科大学(TMDU)は8月15日、歯周病原細菌が関節炎の増悪化を引き起こす仕組みとして、細胞質内センサ「カスパーゼ11」に依存的な自然免疫反応の1つ「インフラマソーム」の活性化を、免疫細胞の一種であるマクロファージに対して誘導することがあると突き止めたことを発表した。

  • 今回の研究概要

    今回の研究概要(出所:TMDU Webサイト)

同成果は、TMDU大学院 医歯学総合研究科 細菌感染制御学分野の鈴木敏彦教授、同・岡野徳壽助教らを中心とした共同研究チームによるもの。詳細は、口腔科学に関する全般と関連分野を扱う学術誌「International Journal of Oral Science」に掲載された。

歯周病は歯周組織における慢性の炎症疾患であり、その原因はさまざまな歯周病原細菌によって構成される細菌性バイオフィルムであることが知られている。つまり歯周病は細菌感染症の1つであり、歯周病原細菌の宿主への病原性発揮機構を解明することは、極めて重要な課題だという。さらに近年の研究成果から、歯周病は歯周組織の炎症のみならず、全身へと炎症反応を波及させ、糖尿病、アルツハイマー病、そして関節リウマチといった全身性疾患の発症や増悪化と関連があることも明らかにされている。

歯周病原細菌の1種である「Aggregatibacter actinomycetemcomitans」(以下、同歯周病原細菌)は産生毒素「Leukotoxin A」の作用により、関節リウマチの発症や増悪化に関連が深いことが報告されていた。しかし、その報告のほとんどは臨床サンプルの解析によるものであり、動物モデルや細胞を用いた発症・増悪化機構の解明は詳細に行われていなかったという。そこで研究チームは今回、マウス関節炎モデルを用いて、同歯周病原細菌によって関節炎の増悪化が引き起こされるのかどうかを検証したとする。

研究ではまず、マウスへの同歯周病原細菌の全身感染が行われた。さらに関節炎を誘導させると、肢の腫れが確認され、滑膜内の細胞浸潤および肢内における炎症性サイトカイン「IL-1β」の濃度が、非感染群や他の歯周病細菌感染群に比べると有意に上昇することが確認された。またマクロファージ除去試薬の投与により、その関節炎増悪化の兆候は抑制されたという。以上の結果から、同歯周病原細菌感染による関節炎増悪化には、マクロファージの作用が重要であることが考えられたとする。

次に、実際にマウス骨髄由来マクロファージに対し、同歯周病原細菌を感染させたとのこと。すると同歯周病原細菌はマクロファージに対し、インフラマソームの活性化に伴うIL-1βの産生を引き起こすことが明らかになった。なおインフラマソームとは、病原体の感染、宿主代謝産物を感知する細胞質内センサ分子などによって形成されるタンパク複合体で、自然免疫反応の一種だ。

さらに、カスパーゼ11欠損マウス由来のマクロファージを用いたところ、同歯周病原細菌感染によるインフラマソームの活性化が抑制されたという。なおカスパーゼ11とは、主にグラム陰性細菌の膜成分「リポポリサッカライド」を認識する細胞質内センサの1つだ。以上の結果から、同歯周病原細菌はカスパーゼ11依存的にインフラマソームの活性化を誘導していることが示されたとしている。

またマウス関節炎モデルにおいても、カスパーゼ11欠損マウスでは、同歯周病原細菌感染による関節炎の増悪化(肢の腫れや滑膜内の細胞浸潤および肢内のIL-1β濃度上昇)は野生型マウスに比べて有意に減少したとする。この結果から、カスパーゼ11依存的なインフラマソームの活性化が同歯周病原細菌感染による関節炎の増悪化を制御している可能性が示唆された。

それに加え、同歯周病原細菌感染によるマクロファージへのインフラマソーム活性化は抗マラリア薬クロロキン、抗生物質ポリミキシンB、および抗CD11b抗体によって抑制できることも明らかにされ、これらの薬剤が、同歯周病原細菌感染による関節炎の増悪化も減弱させることを証明したという。

今回の研究成果により、歯周病原細菌によるインフラマソームの活性化が関節炎の増悪化を引き起こすという新たな知見がもたらされ、長年議論されている「歯周病と全身疾患」の関連について重要な情報を提供したとする。また、歯周病原細菌感染による関節炎増悪化メカニズムの一端が解明され、その増悪化を抑制することが可能な新たな治療薬の候補も提案された。研究チームはこれらの成果について、関節炎のみならず、アルツハイマー病などの歯周病原細菌と関連があるとされる、他の全身性疾患の治療法の確立にもつながることが期待されるとしている。