来春の3号機の運転開始で約580万世帯分の電力確保
東京駅から電車と車で約1時間半。千葉県市原市の沿岸部で、8月1日から、世界最高水準の熱効率をほこる発電設備が営業運転を始める。LNG(液化天然ガス)による火力発電所で、JERAの五井火力発電所(市原市)1号機だ。
「こちら1基で約194万世帯の電力を支える発電設備であり、安全で安定な電力供給がわれわれの使命。それに加え、CO2(二酸化炭素)の排出削減に貢献できるのも大きいと考えている。当初計画より約1カ月前倒しで営業運転を開始することで、電力需要が増加する夏の電力供給に貢献していく」
こう語るのは、JERA、ENEOS、九州電力の3社による共同出資会社「五井ユナイテッドジェネレーション合同会社(GIUG)」社長の佐藤正高氏。
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JERA、ENEOS、九州電力の3社が、新たな火力発電所プロジェクトを進めている。
これは老朽化したJERAの既設の五井火力発電所(千葉県市原市)をリプレース(建て替え)するもの。既存の発電所は1963年から50年超にわたって運転を続けてきたが、2018年に老朽化のため廃止。今回、新たに3基の発電機を立ち上げる。
まずは1号機が8月1日から営業運転を開始。発電規模は78万キロワットで、来春までに2号機、3号機(出力規模はいずれも1号機と同じ)の稼働を始める予定。合計出力は一般的な家庭で約580万世帯分の電力を賄える234万キロワット。廃止した発電所よりも約45万キロワット出力規模が拡大するが、年間約110万トンのCO2(二酸化炭素)排出が削減できるという。
総投資額は非公表ながら約2000億円規模。単純に1基が稼働すれば、電力需要に対して、供給余力の余裕がどの程度あるかを示す「電力予備率」は首都圏で最大1%、3基合計で最大3%改善する見通しだ。
「今回のリプレースでエネルギー容量を大きくしていくことによって、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)の実現に貢献していく。当社グループでは、自分たちで安定的な電源を持ち、発電と小売り一体の電気ビジネスを志向している」
ENEOS Power発電部長の髙本仁氏はこう語る。
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今回ユニークなのは、JERAの他、ENEOSや九州電力が加わり、3社による共同出資という形をとっていること。JERAは、3社の共同出資によって、巨額の投資負担を抑えることができる。
ENEOSにとっては、主力の国内石油需要が2040年までに19年比で半減すると言われており、電力小売り事業を新たな収益源に育てたい考え。
九州電力は初の九州域外での発電所。かつては千葉県内で東京ガスと別の火力発電所の開発計画があったが、採算性などの観点から2022年に断念。昨年10月に今回の五井火力プロジェクトへの参画を決めた。
「世界最高効率の発電所ということで、ENEOSが石油精製で取り扱う油の設備の取り扱いなどにJERAが持つ火力発電所で培ったノウハウをミックスしていく。九州電力は昨年から参画したということで、運転や建設ノウハウをお伝えいただくというよりは、どちらかというと、出資者として九電の知見も生かしながら、よりよい運転を進めていく」(JERA国内ガス火力事業部部長の長尾哲人氏)
LNGはエネルギー移行期における現実解
今後は生成AI(人工知能)の普及に伴い、データセンターの需要が増加。日本のエネルギー自給率は約12%。ただでさえ、真夏や夏冬の電力需給逼迫の懸念がぬぐえない中で、日本はどう電力確保を図り、生成AIなど、電力需要の増加にどう対応していくかが問われている。
「LNGはエネルギー・トランジション(移行期)における現実解」とは某商社幹部の言葉。
現在、日本全体の電源構成のうち、約7割を占める火力発電所。安定して燃料を調達でき、太陽光などの再生可能エネルギーのような不安定さもない。中でも、石油や石炭に比べて、燃焼時にCO2排出量を低減できるのがLNG。〝現実解〟として、脱炭素への移行期に安定した供給が期待される所以だ。
現在、政府ではエネルギー政策の方向性を示す「第7次エネルギー基本計画」の策定が進んでいる。再エネ、火力、原子力など、エネルギーそれぞれに利点と課題がある中、佐藤氏は「千葉という地域特性も踏まえながら、脱炭素や環境性を考えたうえでLNG火力に取り組むことを決めた。今のところ、水素やアンモニアなどに転換する計画は無いが、将来的に水素などへの転換に対応することは可能な設備になっている」と語る。
足元の安定供給と脱炭素の両立へ向け、〝現実解〟を探るJERA。無資源国・日本にとって、天然ガスの果たす役割はまだまだ大きいと言えそうだ。