物流センターで貼り付けられるラベル、小売店舗の商品に貼られる値札、衣料品に付いているタグ、病院で患者が手首に巻き付けるリストバンド……。バーコードやラベルでモノやヒトを管理することが当たり前になった。それらの自動認識ソリューションでトップを走るのがサトーホールディングス(HD)だ。社長グループCEOの小沼宏行氏は「ハードとサプライの両方の機能を持っているのは当社だけ」と強調する。人手不足、原材料高騰下、同社の役割は増しているという。
「タギング」で生産性向上を
あるEC通販事業者の物流センター。コンベアの上を大量の段ボール箱が流れている。だが、ラインには人はほとんどいない。各所にはラベル自動印字貼付機や制封函機が置かれる。そこに段ボール箱が近づくと、横から空気で噴射してラベルが貼り付けられる。また、別の貼付機では段ボールの形状を計測した上で、その上からでも形を崩すことなくラベルを貼り付ける。1時間当たり数百単位の段ボール箱に貼り付けが可能だ。
物流の現場では出荷時に複数のラベルを段ボール箱に貼り付けなければならないが、送り状や内容明細ラベルなど、ラベルの種類は多岐にわたり、人海戦術では非効率。人手不足の観点からも出荷遅れや間違いも起こり得る。こういった現場を手助けしているのがサトーホールディングス(HD)だ。
「バーコードやRFID(無線周波数識別)などの自動認識デバイスを使って、モノやヒトに情報を紐づけて可視化することで省人化や省力化に寄与すると共に、省エネによる環境対応や製品のトレーサビリティ(追跡可能性)、賞味期限の管理など企業の経営課題の解決につなげることができる」─。サトーHD社長グループCEOの小沼宏行氏はこのように強調する。
人手不足が深刻化し、原材料価格の高騰に伴って製造原価の低減にあらゆる企業が直面している。その中でサトーHDは「タギング(タグ付け)」と呼ばれる手法で生産性向上などを支援。このタギングとはSNSのハッシュタグ(目印)のような役割を担う。さらに同社は〝情報の与え方の技術〟も磨く。
同社はリテール(流通)、マニュファクチャリング(製造)、フード(食品)、ロジスティクス(物流)、ヘルスケア(医療)の5分野を中心に幅広く対応している。小沼氏は「それができるのもプリンターやラベルなどの開発から保守まで行うメーカー機能を有し、シールやラベルといった消耗品を生産する機能も持っているからだ」と話す。
ハード(機器)とサプライ(消耗品)の両方を手掛けるのはサトーHDだけ。しかも、技術は進化する。格納できる情報量が増えたことを受けて新たなソリューションを提供してきた。「世の中になければ自分たちでゼロからつくってきた」とメーカー機能の優位性を語る。
約20年前、スーパーの商品に値札を付けるハンドラベラーを製造していた頃は値段等の目視情報しか付けられていなかった。だが、今は販売実績や気象情報などからAIが最適値引き率を算出し、その場でラベルを作成可能。「経験が少ない担当者でも過剰値引きを防ぎ、廃棄ロスの低減も実現できる」(同)。
こういった〝提案営業〟ができるのも「営業の担当者が顧客の現場にまで直接足を運び、現場を直接見て、顧客が何に困っているかを見出して改善策を提案する」(同)という〝現場力〟があるからだ。それは小沼氏自身も実践している。
「三行提報」で新たなアイデア
1973年生まれの小沼氏は2000年にサトーに入社。10年から5年間、医療事業部の責任者を務め、23年から現職。医療事業の責任者だった当時、新生児の取り違えが社会問題化。医療機関と対話している中で、多忙を極める医療従事者の作業負担を軽減することで人的ミスの防止が実現できると考えた。
そこで小沼氏が開発したのが母親と新生児のリストバンドをプリンターで同時発行するシステム「koDakara(こだから)」。分娩時に母親の手首から新生児用リストバンドを切り離して装着し、生まれた瞬間に身につけるため、取違いを防げると共に、医療従事者の負担も減らした。
そもそも同社には常に新たな商品やサービスを開発するための土壌がある。全社員が社長宛に127文字で提案や報告を行う「三行提報」だ。これにより「失敗を許し、他社より早く動くことができる」(同)。小沼氏もkoDakaraの導入に当たって慎重な医療機関から何度も断られたりしながらも素材を変えたりしながら実現させた。
24年3月期の同社の売上高は約1434億円、営業利益は約103億円と4期連続の増収を続けている。海外は約90カ国で展開しており、売上高比率は国内と海外でほぼ半々だ。一方で、顧客の事業所に足を運ぶことを重視するため、人件費などがかさばり、販管費がどうしても高止まりする。
22年度の世界のバーコードラベルプリンタの金額シェアで世界第2位のサトーHDの営業利益率は7.2%だが、世界最大手の米ゼブラテクノロジーズコーポレーションは2桁だ。しかし、小沼氏は「販管費も投資だ」と言い切った上で、「顧客の困り事を解決する付加価値の高さで勝負する」と話す。
さらに小沼氏が見据えるのは新たな分野の開拓。「エンターテインメントの分野で、自動認識技術をエモーショナル(感情的)な領域に広げることができるかもしれない」と語り、既存の分野では自動認識技術で蓄積したデータを「物流や生産システム、マーケティング情報にも生かせる」と小沼氏は語る。
1940年に竹材加工機械の製造販売から出発して約80年余。デジタル時代を迎えても「深く長く顧客と付き合う」(同)というスタイルを維持するサトーHD。顧客に対する更なるソリューションを生み出す発想力が今後の同社の成長を左右する。
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