岡山大学は8月9日、「臓器チップ」技術を応用したヒトのミニ心臓モデルを開発したと発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 医歯薬学域(医) システム生理学の高橋賢 准教授、同大 成瀬恵治 教授らで構成される国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
新薬の薬効や毒性を調べる際や医学研究で病態モデルを作成する際には、ヒトを用いることはできないため、実験動物が用いられるのが一般的だが、そうした動物で有効とされても、そのうちの9割がヒトには効果がないとも言われている。また、動物を使った病態モデルに関しても、ヒトの病態を必ずしも正確に反映していないという問題があるほか、薬の効果を調べるために動物を犠牲にすることが倫理的に問題とされるようになってきており、国際的な流れとして動物実験を減少させるような動きも出てきている。
こうした状況への対応に向けた研究として、今回、研究チームでは、iPS細胞由来の細胞をマイクロ流体チップ上で共培養することで、ヒト心臓の機能を高度に再現する臓器チップ技術を活用し「ヒト心臓チップ」の開発を試みることにしたという。
臓器チップ技術は、シリコンなどの樹脂でできたマイクロ流体チップ上でヒトの臓器の機能を模倣する技術であり、生体内の臓器を構成する複数の細胞を共培養することで、臓器の特定の機能や反応を再現できることを特徴とする。また、チップ上には微細な流路が設けられ、血液や栄養素、酸素の流れを模倣できる仕組みも備えていることも特徴であり、薬物の効果や毒性の評価、新薬の開発、個別化医療の研究など、さまざまな用途で活用されるようになってきているという。また、これまで実験動物に依存していた薬効・毒性評価の問題点を解決する手段としても注目されており、動物実験の代替や精度の向上も期待されているともする。
今回の研究では、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞をマイクロ流体チップ上で共培養することで、ヒト心臓の機能を高度に再現するヒト心臓チップを開発。このチップは、単に心筋細胞を培養した実験系と比較して、より精密に心臓の構造と機能を再現することができる点が特徴であり、中でもその心筋組織は800μmという世界トップレベルの厚さを持ち、自発的で強力な収縮を示すとともに、神経伝達物質で副腎皮質ホルモンとしても知られる「ノルアドレナリン」を投与することによる心拍数の上昇など、薬物への反応を再現できたという。
なお研究チームでは、今回発表したヒト心臓チップが普及することで、心不全や心筋梗塞などの心疾患に対する、より効果的な治療薬の開発が期待されると説明しているほか、これまで実験動物に依存していた薬効・毒性試験が動物を用いずに実施できる可能性が広がるとしている。また、個人のヒトiPS細胞を用いることで、個別の心臓チップを作成することで、個人差を考慮した個別化医療の実現にもつながることが期待されるともしている。