名古屋大学(名大)は8月8日、従来は溶解させたまま活用する界面活性剤を金属イオンと共にあえて析出(せきしゅつ)させて、固体の結晶として鋳型利用するという汎用的な方法を開発し、ガリウムやアルミニウム、インジウム、セリウムなど、10種類の「アモルファスナノシート」の合成に成功したと発表した。
同成果は、名大 未来材料・システム研究所(IMaSS)の山本瑛祐助教、同・長田実教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
ナノシート(二次元物質)は、原子レベルの薄さと二次元ナノ構造に起因した特異特性を示し、元々の三次元物質とはまた異なる特性や機能を示すことが知られる。これまで、天然に存在する結晶性層状化合物から剥離される結晶性のナノシートが主に活躍してきたが、最近では、1nm程度の極めて薄いアモルファスのナノシートが次世代の材料として期待されている。たとえばアモルファスのナノシートは、その乱れた構造に由来して多くの欠陥を含むために優れた触媒活性を示すことや、応力がゆっくりと緩和するためにしなやかな機械的な特性を示すなど、これまでの結晶性ナノシートとはまったく違う特徴を見せている。
しかし、アモルファス物質は非層状構造体であるため、一般的な合成手法である層状化合物の剥離によるナノシート合成が困難だ。そのため、従来の合成方法で得られるアモルファス二次元材料は厚いシートに限定されており、ナノシート特有の効果が得られる数nmの極限薄膜合成は炭素やシリカなど、極めて限定された組成でのみ達成されていた。このアモルファスナノシートという新しい材料群の科学を開拓していくためには、そもそも汎用的な合成手法を開発することが必要とする。そこで研究チームは今回、従来は溶解させたまま鋳型として利用する界面活性剤をあえて析出させて、固体の結晶として鋳型利用することで、さまざまなアモルファスナノシートの合成を試みることにしたという。
前駆体となる界面活性剤と金属イオンの複合体結晶は、一般的によく使われる洗剤などの界面活性剤水溶液と金属イオン水溶液を混合することで作製することが可能。この前駆体となる界面活性剤結晶は層状構造を有しており、その層間には金属イオンが規則的に配列している。この界面活性剤結晶に対し、アンモニアの水蒸気を室温で曝露するという比較的穏やかな条件で、界面活性剤結晶の層状構造を残したまま、層間の金属種の加水分解が行われた。その後、アンモニア水蒸気処理後の界面活性剤結晶を、ホルムアミド中に浸漬してエージングすることで金属種の拡散が促進され、アモルファスナノシートが作成された。
たとえば、金属種としてガリウムイオン(Ga3+)を利用した場合に得られるナノシートは、原子間力顕微鏡測定により厚みが1.5nm程度であり、透過型電子顕微鏡観察と制限視野電子回折パターンからアモルファス物質であると突き止められたという。また、得られたナノシートが酸化物もしくはオキシ水酸化物であることはX線光電子分光法により確認された。このほかにもアルミニウム、スカンジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ロジウム、インジウム、セリウムなどを含むさまざまなナノシートを合成することに成功したとする。
今回の研究では、界面活性剤をあえて溶かさずに金属イオンと共に結晶化することで、原子レベルで平滑な二次元空間に金属イオンを閉じ込めるという発想により、固体結晶を鋳型として利用する二次元材料創製の新しい手法が提案された。層間に金属種を整列させた後に、ステップを分けて加水分解や重縮合を促進することで、従来法では達成困難だったさまざまなアモルファスナノシートを合成することが実現された。今回の技術で合成された新しい材料群は、二次元材料や非晶質材料の新規物性開拓など、新しい科学の手がかりとなることが期待されるとしている。