ビックデータ解析のClouderaは8月6~7日の2日間、データおよびAIに関する年次カンファレンス「EVOLVE24 APAC」をシンガポールで開催した。Amazon Web Services (AWS)とIBM、Red Hatがスポンサーを務めた今回のカンファレンスには、Clouderaの役員をはじめ、400人を超える顧客やパートナーらが参加した。

7日に開催された基調講演には、最高経営責任者(CEO)のチャールズ・サンズベリー氏や最高戦略責任者(CSO)のアバス・リッキー氏ら主要幹部が登壇し、生成AI時代におけるデータ活用などについて説明した。また両氏は講演後、APAC(アジア太平洋地域)各国の報道陣による合同取材に応じ、2025年度における戦略についても明らかにした。

  • Clouderaは8月6~7日の2日間、データおよびAIに関する年次カンファレンス「EVOLVE24 APAC」をシンガポールで開催した

    Clouderaは8月6~7日の2日間、データおよびAIに関する年次カンファレンス「EVOLVE24 APAC」をシンガポールで開催した

AI時代におけるデータ活用

サンズベリー氏は講演の冒頭、Clouderaのこれまでを振り返った。

Clouderaは2008年にGoogle、Yahoo、Oracleの元従業員によって設立され、ビックデータ基盤のリーディングプロバイダーとしてスタートした。創業当初は、分散処理技術である「Apache Hadoop」をベースにしたデータ管理ソフトウェアの開発やサービス、トレーニングを提供していた。

2019年には、Hortonworksとの統合を経て、エンタープライズデータクラウドの提供を開始。2021年からは第2の創業期に突入し、ハイブリッドデータクラウドの実現を目指している。

  • これまでのCloudera

    これまでのCloudera

主力製品はビッグデータ統合基盤の「Cloudera Data Platform(CDP)」。オンプレミスに加えて、ハイブリッドクラウド、パブリッククラウドの環境でデータ管理と分析を統合的に行うことができる、エンタープライズ向けのデータクラウドソリューションだ。

CDPは、データの収集から分析、可視化、AI活用まですべてを網羅し、大容量と高パフォーマンス、そして柔軟性を備えたデータレイクハウスだ。また、データの構造にかかわらず格納できるストレージをHDFS(Hadoop Distributed File System)やOzone、Amazon S3など多くの選択肢の中から選ぶことができる点が特徴だ。

サンズベリー氏は「Clouderaは、パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプ レミスといったあらゆる環境において、あらゆるデータを制御、分析、最新化することができ、企業が抱える複雑なビジネス課題を解決できるように支援している」と述べた。

  • Cloudera CEO チャールズ・サンズベリー氏

    Cloudera CEO チャールズ・サンズベリー氏

同社が公表するグローバルでの採用実績によると、2024年8月現在、4000を超える顧客企業を抱え、保険、金融、自動車、製薬、通信など各業界の世界上位10社のほとんどが同社の顧客だ。また、世界の190以上の行政・公共機関がClouderaのデータプラットフォームを活用している。

  • Clouderaのグローバルでの採用実績

    Clouderaのグローバルでの採用実績

Clouderaが管理するデータ量は25EB(エクサバイト:エクサは100京)を超えており、これは他のクラウドオンリーベンダーの100倍以上にあたるという。2024年における年間収益は10億ドル(約1475億円)の大台を超えた。「業界のハイパースケーラーと肩を並べている」(サンズベリー氏)

  • 25エクサバイト以上のデータを管理

    25エクサバイト以上のデータを管理

Clouderaは現在、AI関連への投資も加速させている。2024年6月にVertaのオペレーショナルAIプラットフォームを買収し、AIの専門性を向上させている。Vertaはハイブリッドクラウドおよびマルチクラウドのエンドツーエンド型AIプラットフォームを提供しており、企業による全社的なモデルの構築や運用、監視、セキュリティ確保、拡張を可能にするとしている。

そしてClouderaは同月、より高度なデータ分析を実現する3つの新しいAIアシスタント「SQL AIアシスタント」「Cloudera Data Visualization内のAIチャットボット」「Cloudera Machine LearningのCloudera Copilot」を発表した。

  • 3つの新しいAIアシスタントを発表

    3つの新しいAIアシスタントを発表

SQL AIアシスタントは、複雑なSQL(データベースを操作するための言語)の記述で生じる課題の解決をAIが支援するもの。データを検索できる可視化されたダッシュボード「Cloudera Data Visualization」内のAIチャットボットは、企業のデータと直接対話するように設計されており、 BIダッシュボードが通常表示できる以上のコンテキスト化されたビジネスインサイトを提示できるという。

そして3つ目のアシスタントAI「Cloudera Copilot」は、事前にトレーニングされたLLM(大規模言語モデル)を備えており、データラングリングからコーディングに至るまで、AIやML(機械学習)モデルを本番環境で展開する際に関連する課題を解決できるとしている。

IBMのグローバル調査によると、約8割の企業がエンタープライズAIを利用中もしくは検討しているという。サンズベリー氏は「AI技術の進化に伴い、企業はそれを業務に導入する新たな方法を見出している。AIとデータマネジメントは密接に関係しており、AIはデータマネジメントの未来を担っている」と話した。

  • APAC各国の報道陣による合同取材に応じるサンズベリー氏

    APAC各国の報道陣による合同取材に応じるサンズベリー氏

2025年度の戦略については、3つの柱「Deliver TRUE Hybrid(真のハイブリッドの提供)」「Enable Modern Data Architectures(最新のデータアーキテクチャの実現)」「Accelerate Enterprise AI(エンタープライズAIの加速)」を掲げる。「ハイブリッドデータ、アナリティクス、AIのリーダーになるための投資を続ける」(サンズベリー氏)

  • 2025年度の戦略

    2025年度の戦略

“真”のハイブリッドとは?

講演や合同取材の中で、サンズベリー氏とリッキー氏は何度も「“真”のハイブリッドを提供する」と強調していた。

真のハイブリッドはどのような概念で、一般的なハイブリッドと何が違うのだろうか。リッキー氏に質問を投げかけてみると、「真のハイブリッドとは、オンプレミスやプライベートクラウドからパブリッククラウドにワークロードを移動できることを意味する。アプリケーションを書き換えることなく、クラウドとオンプレミスの間でアプリケーション、データ、ユーザーを柔軟に移動できる」と答えた。

  • 合同取材に応じるCloudera CSO アバス・リッキー氏

    合同取材に応じるCloudera CSO アバス・リッキー氏

同氏は続けて、「データだけでなくそのアクセス権やメタデータも共有できる。データ資産の所有を把握・コントロールでき、データ主権を確保できる」と説明した。

米国の調査会社IDCは、今後世界で蓄積されるデータ量は年平均27%の割合で増加し、2025年の世界のデータ量は175ZB(ゼタバイト:ゼタは1兆の10億倍)になると予測している。一方でそのうちパブリッククラウドによるデータ量は約6割に留まる。また、451 Researchによると約8割の企業は、オンプレミスのリソースとパブリッククラウドの両方を統合したいと考えているという。

また同氏は、Clouderaが実現するハイブリッドデータプラットフォームが、システムコスト全体の削減に貢献できることも強調した。ある石油・ガスの大手顧客はハイブリッド環境を実現することで、ログの量を60%削減し、5年間でロギングコストを200万ドル節約したという。

一貫性のあるデータの上で、パブリックとクラウドのスケールメリットを最大化でき、データ保存など高コストな箇所はプライベートクラウドに展開することでコストも最適化できる。

  • ハイブリッドデータプラットフォームによるコスト削減の顧客事例

    ハイブリッドデータプラットフォームによるコスト削減の顧客事例

AI環境を構築するうえでもハイブリッド環境は適していると同氏は指摘する。「エンタープライズグレードのLLMオペレーションは高価だ。Clouderaのハイブリッドソリューションは、データの収集からAIまでのすべての機能を網羅しているため、同業他社より40%安い」(リッキー氏)という。

  • Clouderaのハイブリッドソリューションは同業他社より40%安いという

    Clouderaのハイブリッドソリューションは同業他社より40%安いという

リッキー氏は「真のハイブリッドにより、企業はコストを最適化し、セキュリティとガバナンスを強化できる。そして、ビジネス変換のためのデータ戦略を立てることが可能だ。Clouderaは真のハイブリッドデータプラットフォームを提供できる唯一の企業」と自信を見せていた。