中堅証券会社の東洋証券が、株式を買い集めたアクティビストファンド(モノ言う株主)の圧力で、6月26日の株主総会当日、桑原理哲社長(当時)の取締役選任議案を取り下げ、金融界に衝撃が走っている。
取引先企業との株式の持ち合いなどを通じて安定株主を多く抱えてきた金融機関で会社側が取締役選任議案を取り下げるのは異例。同社株はUGSアセットマネジメントなど複数のアクティビストに買い集められ、足元の議決権保有割合は3割弱に達し、今回の総会では独自の取締役候補選任案などを株主提案。
これに対し、東洋証券側は議決権の4分の1を占める複数の金融機関を「安定株主」と位置付け、残る4分の1超の賛成を個人株主(議決権の約4割に相当)から獲得できれば競り勝てると踏んでいたようだ。
だが、20年3月期と23年3月期に最終赤字を計上した上、強みだった中国株の販売も中国経済の不振で低迷。24年3月期は13億円の最終黒字に転換したとは言え、他の中堅証券に比べ見劣りするのが実情だった。
会社側が事前の議決権行使状況などを分析した結果、桑原氏に対する賛成比率が過半に達しない見通しが強まり、本人から取締役選任議案の辞退と社長退任の申し入れがあったという。
海外投資家はかねて、日本企業に政策保有株式の解消を強く求めてきた。ただ、多くの企業は長年「一方的に売却すれば、業績にも悪影響が出かねない」などとして消極的だった。
その状況が変わったのは、海外の投資マネー呼び込みによる東京市場の活性化や、上場企業の資本効率の向上、ガバナンス改善などを理由に金融庁や東京証券取引所が持ち合い解消を奨励してきたことも影響している。
東洋証券の総会を巡る今回の動きは、株価や業績が低迷する他の企業にとって決して「対岸の火事」ではない。市場と当局の強烈なプレッシャーを前に、有力上場企業も政策保有株の売却を加速させており、持ち合い解消は大きな潮流となっている。安定株主という支えを失った経営者は、株主価値の向上策を示さなければ容赦なく退場を迫られる厳しい時代が到来した。