東京大学(東大)、聖マリアンナ医科大学、新潟医療福祉大学(NUHW)の3者は8月7日、フローレス島(インドネシア)のソア盆地から、これまでに見つかった人類化石の中で最小の上腕骨を含む、複数の原人化石を発見したと共同で発表した。

同成果は、東大 総合研究博物館の海部陽介教授、聖マリアンナ医科大学の水嶋崇一郎教授、NUHWの澤田純明教授に加え、インドネシア、オーストラリア、アメリカの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

  • 発見された70万年前のフローレス原人の大人の上腕骨

    発見された70万年前のフローレス原人の大人の上腕骨。骨の下側半分が残存している。撮影:海部陽介教授(出所:共同プレスサイト)

我々ホモ・サピエンスの出現は10~30万年前(説によって異なる)とされ、出現当時は、クロマニヨン人を始め、すでに滅んでしまった旧人や原人などもいたとされる。そうした中に、インドネシアのフローレス島のリャンブア洞窟の約6万年前の地層から発見された、「フローレス原人」(Homo floresiensis)がいる。ホモ・サピエンスはアフリカで誕生し、そして世界へと拡散していったが、東南アジア近辺には5万年前ごろには到達していたとされる。そしてフローレス原人は、その影響を受けたのかそのころに姿を消したと考えられている。

フローレス原人は、非常に小型であることが特徴で、2004年に報告された推定身長は106cmだったとされ、、同原人は脳の容量も少なかったと推定されている。人類の脳の容量は右肩上がりで拡大し続けてきたが、フローレス原人において脳の容量の縮小がいつ、どのように生じたのかは、頭骨化石が未発見のため、現時点では不明。

なおフローレス原人の化石の発見は、ホモ・サピエンス以前の人類が海を越えて島へ渡っていたこと、かつてのアジアにさまざまなホモ属の人類がいたことを知らしめ、人類進化観を大きく変えたとする。以来、フローレス島の原人がどのように小さな身体と脳を進化させたのかに関心が寄せられ、同島の140万~70万年前の化石が得られるソア盆地が注目を集めてきたという。

  • 東南アジア島嶼部における原人の分布

    東南アジア島嶼部における原人の分布。ジャワ島にいたのはジャワ(Java)原人で、その東部が今回のものも含むフローレス(Flores)原人。同原人は最も小柄な人類として知られる。薄いグレーは氷期の海面低下時に拡大していた陸域(出所:共同プレスサイト)

そうした中で研究チームは2016年、ソア盆地のマタメンゲからフローレス原人と類似する歯と下顎骨化石を発見。同島における原人の歯と顎における小型化が70万年前までに生じていたことを報告した。今回のマタメンゲからの追加報告は、その時点で得られていなかった待望の四肢骨1点(上腕骨の下半分)と歯2点についてで、これらの解析から以下の結論が導かれたとする。

計10点となったマタメンゲの人類化石は、少なくとも4人分(そのうち2人が子ども)のもの。どれもリャンブアのフローレス原人とよく類似しており、歯の特殊化が進んでいない古いタイプのフローレス原人とみなせるという。

まずデジタル顕微鏡による微細構造の観察から、小さな上腕骨(SOA-MM9)は大人の骨で、その太さと復元した長さにおいて、既知の人類化石の中で最小だという。

比較が可能な、少なくとも2個体に属する歯・下顎・上腕のどれにおいても、リャンブアのサイズを下回ることがわかった。つまり70万年前のフローレス原人は、リャンブアと同等かそれよりもさらに小さかったといえるとする。

  • フローレス島ソア盆地にあるマタメンゲの化石発掘地点

    フローレス島ソア盆地にあるマタメンゲの化石発掘地点(2013年調査時)。撮影:海部陽介教授(出所:共同プレスサイト)

復元された上腕骨の長さ(211~220mm)から推定された身長は、低身長のヒトモデルではマタメンゲが103~108cm、リャンブア(LB1)が121cm、類人猿モデルではマタメンゲが93~96cm、リャンブア(LB1)が102cmだった。なお、身長と上腕の長さのプロポーションの違いから、2つのモデルの予測は異なるとする。リャンブアのフローレス原人は両者の中間的(大腿骨と比較が行われた上腕の長さが現代人より長く、類人猿よりは短い)であるため、2つのモデルの中央値(約100cm)が今回のマタメンゲの実際の身長に近いことが予測されるという。ちなみに、大腿骨の長さから検討されたリャンブア(LB1)の推定身長は、106cm程度と報告されている。

小型であることを除けば、マタメンゲの化石はジャワ原人と高い類似性を示すという。つまり、現代人並みに大柄だったジャワ原人からフローレス島において劇的な小型化が生じたことが想定されるとした。ただし、フローレス原人が、ジャワ原人よりも小柄で原始的な、猿人やホモ・ハビリスから進化したとの説は支持できないとする。

  • マタメンゲとリャンブアのフローレス原人の上腕骨

    マタメンゲ(左)とリャンブア(右)のフローレス原人の上腕骨。撮影:海部陽介教授(出所:共同プレスサイト)

体長3mになるコモドオオトカゲやワニが生息していた太古のフローレス島において、フローレス原人が小型化したことは、原人にとってそれらの大型は虫類はさしたる脅威ではなかったことが示唆される。島における早期の小型化とその後の体サイズの平衡は、孤島における小さな身体が、原人にとって何らかのメリットがあったことを暗示しているとした。

なお東大 総合研究博物館では、今回の新発見の化石のレプリカを、特別展示『海の人類史-パイオニアたちの100万年』にて一般公開中だ(入館無料)。