長崎大学は8月6日、がん患者の血液からがん細胞を特異的に認識して抗がん作用を持つT細胞を選び出し、遺伝子操作を加えることなく活性化して増殖させるという手法の開発につながる、多様な二分子間の相互作用を高感度で検出できるシステムを開発し、「インターフェロンα/β受容体再構成システム」(IFNARRS)と命名したことを発表した。
同成果は、長崎大 先端創薬イノベーションセンターの林日出喜特任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載予定。
細胞にウイルスが感染すると、その細胞は「インターフェロンα/β」というタンパク質を細胞外に出す。そのインターフェロンα/βをその細胞自身および近くにいる細胞が「インターフェロン受容体-1/2」(IFNAR-1/2)という2つの異なるタンパク質で感知し、そのシグナルを細胞内に伝え、ウイルスを排除するのである。そこで研究チームは今回、さまざまな二分子間の相互作用を高感度で検出できるシステム、IFNARRSを開発することにしたという。
ヒトの身体では、多くのタンパク質が他のタンパク質との相互作用(結合)によってシグナルを伝達しながら生命が維持されている。そこで今回の研究では、あらかじめ結合することが知られている、XとYという2つのタンパク質それぞれを、IFNAR-1/2に結合させてみることにしたという。すると、XとYが結合することにより、シグナルが細胞に伝わることが判明したとする。
しかもIFNARRSを利用することで、XとYの両タンパク質の結合を、これまでになく高感度に検出(ルシフェラーゼ活性など)することができるようになったとした。さらに、このシグナルを目的とする別のシグナルに変換することもできると突き止められ、IFNARRSを使うことで、細胞間のシグナルの受け渡しを目的に沿うようなデザインにすることが可能になったとした。これは、IFNARRSを使うことで、たとえばがん患者の血液からがん細胞を特異的に認識して抗がん作用を持つT細胞を選び出し、遺伝子操作を加えることなく、活性化して増殖させる、免疫治療系の技術の開発につながるものだという。
ヒトの免疫システムにはさまざまな役割の細胞がおり、司令塔として知られるのがT細胞だ。同細胞はそれぞれ特有の受容体を持つが、その中にはがん細胞に特異的な抗原を認識する受容体を持ったものもいる。つまり、がん細胞を死滅させるには、別の免疫細胞である「樹状細胞」の助けを借りてこのT細胞を活性化し増やす必要がある。
そこで今回の研究では、IFNARRSを用いて、樹状細胞類似細胞である「G-188細胞」が作成された。同細胞は、がん患者自身が持っている抗がん作用T細胞から分泌される「インターフェロン-ガンマ」(IFNγ)を検出し、そのシグナルからT細胞活性化遺伝子群およびT細胞増殖因子を発現させることで、その抗がん作用T細胞がさらに活性化して増殖するように助ける役割を持つ。G-188細胞を用いて、患者の血液中にある抗がん作用T細胞を、遺伝子操作を加えることなく、体の外で効率よく増殖させた後に患者に戻すことができるようになれば、がんの免疫治療に対して大きく貢献することが期待できるとしている。