近畿大学(近大)、大分大学、徳島大学、大分下郡病院の4者は8月6日、魚油に豊富に含まれる「多価不飽和脂肪酸」である「エイコサペンタエン酸」(EPA)が、心筋細胞の機能を正常化させることを発見すると同時に、EPAには高脂肪食などに含まれる「飽和脂肪酸」によって心筋細胞に生じた酸化ストレスを除去する作用があることも明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、近大農学部 食品栄養学科の森島真幸准教授、同・大学大学院 農学研究科の堀井鴻佑大学院生、大分大学の小野克重名誉教授(大分下郡病院 副院長兼任)、徳島大 先端研究推進センターの堀川一樹教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生化学や分子および細胞生物学などの分子研究全般を扱う学術誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載された。
飽和脂肪酸とは、炭素鎖中に二重結合(C=C)を持たない脂肪酸のことで、肉、乳製品、卵黄、パーム油などに含まれ、摂取量が多いほど、心不全や脳梗塞などの循環器疾患による突然死のリスクが高くなる。その要因として、心房が規則的に収縮できずに細かく震えることで脈が不規則になる「心房細動」が挙げられるという。心房細動は年間約100万人が発症し、国内では最も患者数が多い不整脈の1つであり、予防法の確立が急務とされている。しかし、国内外共にそのための研究基盤が整っていないのが現状だ。
一方、炭素鎖中に二重結合を持つ脂肪酸は不飽和脂肪酸と呼ばれ、さらにそれを2つ以上持つものが多価不飽和脂肪酸と呼ばれる。EPAは魚油に含まれる不飽和脂肪酸として知られ、これまで、血管機能改善作用と抗血小板作用により循環器機能を改善し、心房細動などの不整脈を予防することが解明済みだ。市販のサプリメントとして手軽に購入することもできるが、心筋細胞への直接作用やその機序については十分には解明できていないという。
なお、厚生労働省発表の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」には、EPAの適正な摂取量は提示されておらず、多価不飽和脂肪酸として1日に摂取する「目安量」のみが示されている。そのため、EPA単体について、健康被害を与えない適正量を提示するためには、これまで経験的に得られていた有効性を、科学的根拠に基づき証明する必要があるとするとする。
そこで今回の研究では、マウスの心臓から心筋細胞を単離し、不整脈(心房細動)が誘発される際の血中脂質濃度と同等の濃度の飽和脂肪酸が細胞培養液に添加され実験が行われた。その結果、通常培養した心筋細胞では、心臓の拍動と同じリズムで自動拍動する細胞が見られたが、飽和脂肪酸を添加した心筋細胞では、脂肪酸の濃度依存的に自動拍動の減弱が見られたという。拍動が減弱した心筋細胞では、活性酸素種の産生亢進や心筋の電気活動を担うL型カルシウムイオン(Ca2+)チャネルの遺伝子・タンパク質の発現低下、L型Ca2+の電流の低下が見られ、持続性心房細動患者の心房筋で見られる現象と類似した反応を確認できたとした。
次に、EPAによる予防効果の検証のため、飽和脂肪酸を添加する際にEPAが同時に細胞培養液に添加された。すると、飽和脂肪酸により誘導される細胞傷害に対し、EPAは保護的に働くことが判明。さらに、EPAが心筋細胞にどのように作用するのかを解析するため、EPAなどの多価不飽和脂肪酸が細胞に作用する際に結合する受容体である、遊離脂肪酸受容体(FFAR4)についての検証が行われた。その結果、単離された心筋細胞には比較的豊富にFFAR4が発現しており、EPAはFFAR4を介する経路で細胞内Ca2+濃度の制御に関わるL型Ca2+チャネルの発現を正常化させることが明らかにされた。その一方で、受容体を介さずに細胞内へ入り活性酸素種の産生を抑制し、L型Ca2+チャネルの発現を正常化させる経路が存在することも突き止められた。
これまでに、FFAR4をターゲットとした不整脈の治療や予防方法は発表されておらず、今回の研究は非常に新規性が高いと考えられるという。また、不整脈の発症を未然に防ぐ一次予防方法はこれまでのところ確立されていないため、今回の研究成果は食品由来成分の機能性を活用し、生活習慣病の発症・重症化予防に向けた、新しい栄養管理法の開発につながることが期待されるとしている。