「『IT障害をゼロにする』という目標に向け、常に新技術、新サービスに挑戦していく」と話す。「システム性能監視」の先駆者であるIBCは、ブロックチェーンやIoTの高い技術力を生かして、顧客にサービスを提供。特に今は多くのものがネットを通して提供される時代。そこで問題が起きれば影響は甚大。そのため、IBCの持つ性能監視、セキュリティの技術力がさらに求められる状況。IBCが今後目指すものとは。
コロナ禍、ウクライナ戦争で受けた影響は?
─ コロナ禍の4年間、様々な環境変化があったと思いますが、どう総括しますか。
加藤 元々当社は、2015年にマザーズ(現グロース)、16年に東証1部(現プライム)に上場しましたが、その際にブロックチェーン、IoT(モノのインターネット)を御旗に掲げました。日本、米国でIoTのセキュリティで特許を保有していますから、会社自体も、我々のチャレンジも注目していただいてきました。
日本では経済産業省、総務省がIoTセキュリティの義務化を謳ってきました。それに対応して、当社は18年に日本、21年に米国で特許を取得したのです。ただ、コロナ禍もあり、日本のIoTの市場はほとんど立ち上がっていません。国の予算も、ほぼ全てがコロナ対策の費用に回ったことが影響しています。
また、ロシア・ウクライナ戦争によって全世界的に半導体不足に陥ったことで、サーバーやネットワーク機器の納期遅延やお客様のシステム運用関連に対する投資が抑制されたということもマイナス影響でした。
様々なことがありましたが、上場して9年経っていますから、その意味でも、我々が今後どう進んでいくかが、ますます重要になっています。
─ 厳しい経験も乗り越えたわけですが、今後の展開が問われるということですね。
加藤 ええ。自戒を込めて言えば、今の日本の株式市場は、大企業しか牽引できていないというのが現状です。
新興企業の中には事業の実態はないのに時流に乗っている形にして株価だけ上がっているようなところもある。我々は地に足を着けた経営をしていきたいと思っています。
─ また、実質が評価される時代が来ると思います。
加藤 私もそう信じています。うまくはいきませんでしたが、ネットワーク・サーバ機器やソフトウェアの性能監視以外の新領域を開拓しようと、ブロックチェーンを活用して、あらゆる保険をつなぐプラットフォームづくりに取り組みました。
保険証を撮影すれば自動的にデータが入力できる仕組みを持った管理アプリも出来ていました。大手航空会社、大手百貨店、大手保険会社などの参画も決まっていたのですが、これもコロナ禍が影響しました。
参画を予定していた企業さんがコロナ影響によるリストラを行う事態になり、我々の開発費を賄うだけの会員を確保することが難しくなってしまったこともあり、20年5月に廃業を決断しました。
システムの把握は経営者の重要な仕事
─ 様々な挑戦もしてきたわけですね。厳しい局面を乗り越えさせたものは何でしたか。
加藤 お客様が離れず、付いてきてくださったことです。
当社のシステムの性能監視製品「システムアンサー」は、オンプレミス(サーバーやソフトウェアなどを自社で保有・設置・運用する形態)からクラウドに移行しても、ハイブリッドで対応できます。
それに加えてランサムウェア対策やクラウド基盤上のサービス、セキュリティの脆弱性診断や分析・解析といったセキュリティソリューションも付加価値になっています。
さらには、これまでは手掛けていなかったネットワークやサーバーの構築やインテグレーションも昨年から手掛けるようになっています。
当社はネットワークの〝裏側〟のデータを持っている会社ですから、お客様から依頼があれば分析・解析のサービスを提供しています。
このサービスは人手が必要で手間もかかりますから、今はAI(人工知能)を活用した自動化の検討など、研究開発を進めているところです。
─ 培ってきた技術が評価されていると。
加藤 そう思っています。今の時代、ネットワークやインターネットがなくなることはありません。その関連サービスを提供していく上で、特にセキュリティの強化については、今後もニーズが高いと見ています。
例えば、今はクラウドが主流になっていますが、今の状況でクラウドサービスにトラブルがあれば、個人・企業に与える影響は相当大きなものになると思います。
そうならないように性能監視やソリューションを提供し、自社開発もする。我々は、インターネットの裏側を全て可視化できることに強みがあります。国内のベンダーで同じような企業はありません。
─ 顧客の側のセキュリティ意識は高まっていますか。
加藤 以前よりは高まってきていると思います。ただ、例えばランサムウェアは身代金要求型で、その企業規模に合わせた金額が要求されますから、一部の経営者の中には、それで終わるのであれば「支払ってしまえばいいのでは」という意識の人もいるようです。
当社のお客様の中にもランサムウェアの被害に遭われたところがあります。そうした企業のシステム関連には大手のベンダーと一緒に我々が入っているケースが多いのですが、我々が対策を打つ役割を担っています。
─ 今後、さらに需要が高まりそうなビジネスですね。
加藤 ただ、企業経営者の皆さんの意識に、さらに訴えかける必要があるとも思っています。システム、ネットワークの状態を把握することは経営者の重要な仕事だと思いますが、今はIT部門の投資は大手のベンダーに丸投げしている企業が多いのが実情です。
そうした中で、インターネットを活用した法人向けビジネスを手掛けているお客様などにとっては、当社のツールやサービスはかなり重宝されています。
また、JR東日本さんは当社のお客様ですが、発券システムや予約システムなどのネットワーク状況を性能監視で確認していただいております。今の時代、予約にしても何にしても、全てがインターネット経由ですから、そうしたことをご理解されているお客様は、当社にご依頼されることが多い。
インターネット関連で問題を抱えた経験がある企業さんは、多くが当社のお客様になって下さっています。ただ、それは喜んでいられる話ではありません。当社はコーポレートミッションとして「IT障害をゼロにする」という壮大な目標を掲げているからです。
若い世代が挑戦できる「場」を提供していく
─ 例えば、医療や介護の領域は今後、さらにデジタル化が必要とされる分野だと思いますが、どう見ていますか。
加藤 確かに医療や教育、さらに金融は今後さらにITリテラシーの向上が求められる領域だと思っています。近年は医療機関がランサムウェアの攻撃を受けるケースが増えていますし、学校もコロナ禍の中でオンライン授業を行うためにタブレットを配布するなどしています。こうした領域ではシステム性能監視やセキュリティはさらに求められるのではないかと思います。
そうした中で我々の課題は人手不足です。営業も技術者も、人手不足が深刻化しています。中でも技術者に関しては、数年前から年に数人ずつ、インド人の人材を採用しています。採用に向けて、今後さらに人事の強化を進めなければいけないと考えているところです。
─ IBCはシステム関連の企業ですが、リモートワークをしている社員もいると思います。コミュニケーションはどうしていますか。
加藤 確かに技術者は自宅でも仕事ができますから、在宅の日、出社日を決めて運用しており、マネジメントクラスはきちんとコミュニケーションが取れていると思います。
ただ、コロナ禍が最も厳しい時期には、1人暮らしの若手技術者の中には鬱状態になってしまう人もいました。当社には産業医、産業カウンセラーが社内におり、この対応でほとんどの人が復帰していますが、根深い問題だと感じています。
ネットやオンラインだけのコミュニケーションでは起き得る事態なのだなと痛感しました。コロナが2類から5類に移行してからは、リモートワークもOKと言っているのですが、多くの社員が出社を選択するようになっています。
─ リアルの大切さを実感した人が多かったと。
加藤 ええ。また、社員の待遇も向上させています。2年ほど前に給与水準を一気に引き上げたこともあり、離職者が大きく減りました。さらに今の若い世代は給与もさることながら、自分が成長できる会社かどうかというところも重視して働く会社を選んでいると思います。当社は、社員の成長に向けて積極的に「場」を与えるようにしています。
また、先端技術の開発に向けて、AI、IoTの研究開発、ビジネス創出を行っているNSD先端技術研究所に出資し、持分法適用会社にするなど、我々自身が新たな挑戦を常に続けているのです。
─ 技術開発には終わりがありませんね。
加藤 そう思います。例えば当社には「kusabi」というブロックチェーンを活用したIoTソリューションがありますが、Machine to Machin(M2M=機械同士が相互に通信し、情報のやりとりや自動制御を行う技術)で、ネットにつながらなくても認証ができます。
震災などの災害が起き、ネットがつながらなくなった状態になっても、ハードウェアやチップなどで認証ができるようになるのです。
所在不明の人がいた際にネットにつながっていなくても安否確認ができるようになる可能性があります。ネットワークが当たり前の時代にあって、逆に必要とされる技術ではないかと考えています。
また、自動車でもロボットでもドローンでも、デバイスに関係なく組み込めることができるという利点がありますから、今後の可能性が大きいソリューションだと考えています。
何より「人」を大事にして
─ 改めて振り返ると、加藤さんはLAN機器の営業に携わっていたことからヒントを得て、システム性能監視というビジネスで起業したわけですが、起業志向はありましたか。
加藤 いえ、全く考えていませんでした。サラリーマンでいいと思っていたタイプです。
─ 02年の起業ですから、みずほ銀行が発足した年で、まだ日本の金融危機の余波が残る厳しい時代でしたね。
加藤 経営環境は確かに厳しかったですね。サラリーマン時代は上場企業で営業部長を務めましたし、その後に移ったベンチャー企業では、1年でその企業の売上高を倍にするという成果を出すこともできました。
その企業を辞めた際に「一緒に働きたい」と付いてきたメンバーがいたことから、全財産をなげうって起業することにしたのです。35歳の時でした。
ただ、彼ら全員の裏切りに遭い、私1人になって再出発してから今があります。元々がサラリーマンで、営業で……という人間が起業して上場するケースも多くないと思いますし、私みたいな変な人生を歩んでいる経営者は、なかなかいないのではないかと思います(笑)。
─ 最近、経営をする上で意識している言葉はありますか。
加藤 前向きに生きるということを意識しています。最近はいつも、自分の中で「ヒト・モノ・カネの順で前向きに生きればいい」と言っています。この順番が大事だと思っていまして、カネは後から付いてくるものだと考えているのです。
やはり何よりも「人」が大事だと思っています。19年に『デジタル時代を生き抜く「エモーショナル経営」』(学研プラス)と題した書籍を出したのも、「人」との関わりが大事だという思いがあったからです。