大阪公立大学(大阪公大)は8月5日、50万人以上の肺がん患者の診療報酬データから、2つの治療法(免疫療法/従来の抗がん剤治療法)と生存期間の関係に対する、ボディマス指数(BMI)の影響を検証した結果、いずれの治療法でも、肥満の患者はBMIが低い患者に比べて肺がんにはかかりやすいが、死亡リスクは逆に低いことが明らかになり、また肥満患者には免疫療法の効果が不十分となる可能性があることも明らかになったと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 医学研究科 医療統計学の井原康貴大学院生(大阪市立大学大学院 医学研究科)、同・今井匠特任講師、同・新谷歩教授、同・臨床腫瘍学の澤兼士講師らの研究チームによるもの。詳細は、臨床ケアやヘルスケアなどを含む医療に関する全般を扱う学術誌「JAMA Network Open」に掲載された。
肥満はまさに万病の元であり、糖尿病などの生活習慣病の発症リスクを増大させることはよく知られているが、非小細胞がんなどのがんの発症リスクの上昇(腫瘍増大)とも関連するという報告がなされている。その一方で、抗がん剤による化学療法を受けたがん患者の生存率は、正常体重のがん患者と比べて高いことも報告されていた。この矛盾は、「肥満パラドックス」として知られており、従来の抗がん剤を受けているがん患者だけでなく、免疫療法を受けているがん患者にも存在するという。また基礎研究において、肥満によって免疫細胞が疲弊し、免疫療法の効果が不十分となる可能性が示唆されていた。そこで研究チームは今回、肥満パラドックスの存在下で、従来の抗がん剤と免疫療法のどちらが肥満がん患者の生存率をより改善するのかを評価することにしたとする。
今回の研究では、メディカル・データ・ビジョンが提供する診療報酬に関するデータベースが用いられた。同データベースには3800万人以上の患者が登録されており、急性期医療機関で治療を受けた患者総数の約23%に相当するという。また、基本的な患者の特徴(年齢、性別、体重、身長)や入院日、疾患、生存状況、個々の医療行為の詳細など、外来および入院医療を包括する日常的に収集された患者情報が含まれているのが特徴。
同データから、免疫療法または従来の抗がん剤を受けた進行性非小細胞肺がん(進行性NSCLC)患者のBMIと死亡リスクを解析した結果、肥満(BMI≧30kg/m2)の患者は、BMIが低い患者よりも死亡リスクが低いことが示された。この結果は、進行性NSCLC患者における「肥満パラドックス」が存在することを示唆しているという。
なお、BMIとは肥満(または痩せすぎ)の度合いを表す数値としてよく知られており、自分の体重(kg)を自分の身長(m)で2回割るだけなので、誰でも簡単に産出することが可能だ。世界保健機関の基準では30以上が肥満とされるている(日本人は欧米人よりもBMIが平均的に低いことが特徴のため、日本肥満学会の基準では25以上が肥満と定義されており、日本において一般的にはこちらが使われることが多い)。
また、免疫療法を受けた進行性NSCLC患者におけるBMIと死亡率のU字型関係から、免疫療法を受けたBMI28kg/m2未満の患者は、従来の抗がん剤を受けた患者と比較して死亡率が有意に低いことがわかった。さらに、この相関関係はBMI28kg/m2以上の患者では観察されず、肥満がん患者では免疫療法の効果が不十分となる可能性を示唆する基礎研究を支持する結果となったとする。
以上のことから、肥満の進行性NSCLC患者にとって免疫療法が必ずしも最適な第一選択療法とは限らず、従来の抗がん剤の使用も考慮すべきであることが考えられるという。
免疫療法の効果を左右する因子として、BMIの他に年齢や女性ホルモン、腸内細菌叢などが報告されている。今後、これらの因子の存在下で、免疫療法と従来の抗がん剤のどちらが生存を改善するのかを評価することによって、個別化医療の発展に寄与することが期待されるとしている。