米中対立が続くなか、新たな半導体市場としてインドが注目を集めている。台湾の力晶積成電子製造(Powerchip Semiconductor Manufacturing:PSMC)やルネサス エレクトロニクスなどの半導体企業は現地企業との連携を強化し、インドへ市場参入する動きを進めている。
東京エレクトロン(TEL)や東京精密などの日本の製造装置企業も9月にインドで開催される半導体を中心とするエレクトロニクスイベント(SEMICON INDIA 2024)で最新の製品や技術を紹介するなど、インド進出を強化しようとしている。
インド政府も外国の半導体企業の誘致を積極的に進める構えで、大量の補助金を投入し、インド国内では半導体製造工場の建設ラッシュが期待されている。では、なぜインドがこれまでに注目を集めているのだろうか?。それについて、地政学的な立場から説明したい。
今日の国際政治は、大国間対立の時代に回帰している。周知のとおり、米国と中国は半導体やAIなど先端テクノロジー分野での覇権競争をエスカレートさせて、台湾や韓国、日本やオランダなど半導体分野で高い技術力を誇る国々は、米中間の覇権競争に強い懸念を示している。米国は先端技術を中国に渡さないという動機のもと、中国に対する輸出規制を積極的に進める構えで、日本などは米国が同調圧力を加えてくることを強く警戒している。また、中国による経済的威圧にも諸外国の懸念が広がっており、日本などは米中の対立にできるだけ巻き込まれたくないのが本音だ。
そのような中、新たな希望となっているのがインドだ。インドは今後GDPで日本やドイツを数年以内に追い抜き、世界第3位の経済大国なり、少子高齢化が進む中国とは違い、今後も高い経済成長が見込まれる。また、政治的には米中対立とは一線を置き、今後世界で存在感を強めるグローバルサウスの盟主的存在であり、自由や民主主義など日本などと同じ価値観を共有するインドは、日本経済全体にとって大きな存在だ。
日本はこれまで、世界の工場としての中国に依存することで経済成長を遂げてきた。しかし、世界の工場としての中国は終焉し、日本の同盟国である米国との対立が先鋭化するにつれ、日本にとって中国市場は1つのリスクとなっている。経済的威圧や改正反スパイ法など多くの懸念があり、近年日本企業の対中投資は減退し、脱中国依存が進んでいる。
今後、その代わりになるのがインドであろう。衛生やインフラ、暴動やテロなどは中国よりインドの方が大きなリスクだが、戦略物資の安定供給、グローバルサプライチェーンの強靭化などを考慮すれば、半導体産業を含む日本企業のインド進出は今後いっそう拡大することだろう。日本と中国との間には尖閣諸島や台湾など対立する問題が多くあるが、インドとの間には大きな政治問題は存在しない。中国の間では尖閣諸島の問題では緊張が高まれば、中国国内で日本製品の不買運動が拡大し、現地の日本企業が破壊や略奪などの行為に遭ったことがあるが、インドではそれはまず考えられない。