沖縄科学技術大学院大学(OIST)は8月1日、低温原子の量子凝縮体を用いて実験環境で重力波をシミュレートする方法を提案したと発表した。
同成果は、OIST 量子理論ユニットのニック・シャノン教授、同・レイリ・ホイナツキ博士、東京大学(東大)のリコ・ポーレ博士、同・ハン・ヤン博士、同・赤城裕博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物性物理とその関連分野全般を扱う学術誌「Physical Review B」に掲載された。
2つのブラックホールが衝突して合体すると、空間を伸縮させる波の重力波が放出される。科学番組などで重力波を紹介する際、わかりやすくするため、水面に広がる波紋が地球を通過するようなイメージが用いられることが多いため、重力波が自分の身体を通り抜ける際には、空間の伸び縮みを感知できそうに思えてしまうが、実際にはとてつもなくわずかであり複雑な技術的偉業だという。そして、太陽系ほどの大きさの重力波を検出するには、原子核の直径よりも小さな変化を測定しなければならなくなる。
重力波を観測することはこのように極めて困難であり、重力波を捉えた米国の重力波検出器「LIGO」や、欧州の「Virgo干渉計」、日本の大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」など、世界で稼動している重力波望遠鏡は、1本数kmの腕を直交させたレーザー干渉計となっているが、こうした巨大な観測装置をもってしても、ブラックホールの衝突合体や、中性子星同士の合体など、宇宙でも指折りの激しい天体現象から発生する重力波しか検出できないとする。
それでは、重力波はこうした巨大な装置でしか観測できないかというと、別のアプローチもあるという。それが、一般相対性理論のさまざまな側面と似た地球上の現象を調べるという方法だ。実際、研究チームでは、実験室で磁石と低温原子を用いた研究をしていた際に、ある量子現象が重力波と酷似する可能性があることを偶然発見したとする。これにより、さらにシンプルな実験環境で重力波をシミュレートして研究できるようになるとのこと。
重力波はアインシュタインによってその存在が予言されていたことは有名だが、ほかにも予言や予測を行っていた。その1つに、素粒子間の相互作用を媒介する光子やグルーオンなどの「ボース粒子」が冷却されると、「ボース・アインシュタイン凝縮」状態となり、粒子群が完全に一体となって行動することが可能になるというものがある。そこで研究チームは今回、特定のタイプのボース・アインシュタイン凝縮であり、液晶の量子版である「スピンネマティック」に注目することにしたという。
ネマティック相は、棒状の小さな分子が均一に並び、画面内の光の流れを制御する仕組みである液晶ディスプレイにも存在している。ただしスピンネマティック状態の粒子は、液晶ディスプレイの分子が電界に基づいて状態を変化させるのとは異なり、波として伝播することが可能。そして、スピンネマティック状態の粒子の波の性質が、数学的に重力波の性質と一致することが明らかになったという。これにより、冷却原子を用いることで、重力波を正確にシミュレートする方法が示されたとしている。