半導体OSAT(パッケージング・最終検査)大手の台湾ASE(日月光)の日本法人ASEジャパンが北九州市若松区の市有地およそ16haを34億1500万円で取得する仮契約を北九州市と結んだことが明らかになった。仮契約となっているのは、北九州市議会の承認や日本政府との補助金支給に関する交渉があるためで、本契約に至らない可能性も無きにしもあらずだという。
北九州市の武内和久市長は、8月1日の定例記者会見にて、7月31日付でASEと土地売却の仮契約を締結したことを認めており「まだ進出に向けた交渉の過程であり、本契約に向けてしっかり取り組む」と述べたという。
ASEは、今回の土地取得の目的を将来の需要に応じた生産能力の拡充に備えるためとしているが、工場の建設スケジュールや生産品目は一切明らかにしていない。
図:ASEジャパンの本社工場 山形県 (出所:ASE)
ASEは台湾南部の高雄市に本社を構え、台湾、韓国、日本、シンガポール、マレーシア、中国、メキシコ、南北アメリカ、ヨーロッパに戦略的拠点を有している。日本では、山形県東置賜郡高畠町にASEジャパンの本社工場を有している。同工場は、もともとNEC山形の後工程工場であったもので、これを2004年に買収する形で設立された。
ASE本社の呉田玉・最高執行責任者(COO)は6月に開催された株主総会後の記者団との会見にて、海外各地で生産拠点の分散に取り組む方針を明らかにしていた。そこでは、半導体業界は米中対立をはじめとする地政学リスクの高まりを背景に、顧客である半導体デバイスメーカーから生産拠点の分散を求める声が高まっているとしており、分散先の候補に日本や米国、メキシコなどを挙げ、AI半導体などに必要な先端パッケージングの展開を示唆していた。
九州では、TSMCの熊本第1工場(JASM)が2024年末までに量産を開始する予定のほか、その隣接地に第2工場の建設も決まっており、ASEジャパンの新工場が実装・検査を引き受ける可能性も考えられる。また、日本は前工程工場は多いが、後工程については海外への依存度が高く、国家および経済安全保障上、問題があるとして、OSATも誘致すべきだとの声が上がっていた。
台湾政府が九州に半導体工業区を計画、日本政府と 交渉
TSMCの熊本進出に伴う波及効果を踏まえて台湾政府の経済部(日本の経済産業省に相当)が九州に半導体工業区(台湾の半導体関連企業が集合し、経済的な優遇措置が与えられた工業団地のイメージ)の設置を計画している。
台湾政府の郭智輝 経済部長(大臣に相当)によると、サプライチェーン(供給網)を形成する台湾企業が日本に拠点を置き、TSMCや日本の顧客に近い場所でサービスを提供できるよう支援するのが狙いだとしており、台湾の中央通信社によるインタビューにて、日本政府との協議を行っていることを述べている。
台湾政府経済部は、日本、米国、チェコの3カ国を海外工業区の設置先に選定している模様で、同氏は日本に工業区を設立するには協議や調整に時間が必要だと強調しているほか、業者や市場経営上のニーズを見極める必要もあるとした上で、日本政府と意思疎通をはかり、台湾企業が九州に進出するための積極的なサポートを行っていくことを表明している。
同氏は、台湾企業が自社の製品を海外に売り出すことを支援することを目的に、政府と民間の合弁で大規模な貿易商社を設立する構想があることも明かしており、日本の大手商社を手本にしたい考えで、早ければ2024年末にも設立したいとしている。