東京農工大学(農工大)は7月31日、二酸化炭素(CO2)を原料とする高分子(ポリマー)材料の一種である「CO2/エポキシド共重合体」と「リチウム塩」の混合物からなる「イオン伝導性固体高分子電解質」について、高分子の架橋構造制御と超高塩濃度化を検討した結果、同材料は優れたイオン伝導度と力学強度の両立を実現し、リチウム二次電池(LIB)用のフレキシブルな電解質膜として応用可能であることを実証したと発表した。
同成果は、農工大大学院 工学研究院 応用化学部門の富永洋一教授、同・木村謙斗助教、同・大学 生物システム応用科学府のNantapat Soontornnon大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する材料化学全般を扱う学術誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載された。
有機電解液を使用する現行のLIBは、出火の危険性を構造的に抱えているため、出火の危険性をゼロにできる固体電解質を用いる全固体電池の開発が進む。
極性高分子と金属塩を複合化すると、塩が内部でイオン化し、固体でありながらイオン伝導性を示す場合がある。これを固体高分子電解質とよび、より安全な材料として期待されている。そうした中で、研究チームが着目しているのが、CO2/エポキシド共重合により得られる脂肪族ポリカーボネートの利用だ。
これまでの研究により、従来材料と比べ高い塩溶解能や高リチウムイオン伝導度など、研究例の多いポリエーテル系材料に比べ有望な物性発現メカニズムを有することがわかっている。また、重合条件や触媒種の制御により、一定比率のエーテル結合を含み、ポリエーテル系材料の利点も取り込んだ材料の開発にも成功していた。しかし、得られる材料は柔らかい樹脂状であり、優れた加工性や安定な充放電サイクルの実現には、イオン伝導性と力学的強度を両立させる材料設計が課題だったとする。そこで今回の研究では、高分子の架橋の有用性に着目することにしたという。
CO2、「エチレンオキシド」(EO)、および架橋部位となる「アリルグリシジルエーテル」(AGE)をモノマーとして触媒と共に耐圧容器内に仕込み、前駆体である「ポリ(P)(エチレンカーボネート(EC)/EO/AGE)」が合成された。この時、モノマーの仕込み比を変えることで、さまざまなEC/EO/AGEユニット比率を有する共重合体とされた。固体電解質は、P(EC/EO/AGE)と架橋反応の開始剤を、リチウム塩(リチウムビスフルオロスルホニルイミド)と共に溶媒に溶解させて架橋させる方法で作製された。この時、架橋部位比率と塩濃度の組み合わせを幅広く試し、最適化が目指された。
今回の検討では、約30%という比較的高い架橋部位(AGEユニット)比率の架橋共重合体に、一般的な水準と比較して極めて高い濃度のリチウム塩を含有させた電解質が、膜状の材料として得られ、イオン伝導性と強度の良いバランスを示すことが明らかにされた。このような材料設計は、CO2/エポキシド共重合体型電解質において、一般的なポリエーテル電解質の性質とは逆に塩濃度の増加と共にイオン伝導度が向上するという、先行研究の成果によるものとした。
実際に負極としてリチウム金属、正極として「リン酸鉄リチウム」を用いたLIBが試作され、試験が行われた。すると、400回以上におよぶ充放電サイクルが可能であることが確認されたという。これまで固体高分子電解質材料では、イオン伝導度を向上させるために必要なポリマー構造の変更や可塑剤の添加により強度が失われるため、セパレータ兼電解質として設置しこのようなサイクル性能を実現することは難しいものだったとする。また、ポリエーテル電解質ではイオンを高分子鎖で囲い込むような強固な錯体構造を形成することが必須であり、それが架橋により損なわれることから、架橋はあまり効果的な技術であると考えられてこなかったという。今回の研究により、イオン伝導メカニズムが従来型とは異なる材料であれば、架橋がイオン伝導性と力学的強度の両立のために有用である可能性が明らかにされた形だ。
今回の研究では、モノマーユニットのうち約30%という比較的高い架橋部位の密度を有する架橋高分子に超高濃度の塩を溶解させるという新しい材料設計により、優れたイオン伝導性と力学的強度のバランスが実現された。今後、材料調製プロセスのさらなる検討により、膜厚といった素材としての特性を最適化していくことで、電池内部の電気抵抗低減などが可能であると期待されるという。また、従来材料より優れる電気化学的な安定性を活かして、より高電圧で作動する電池や、元素戦略面で課題のあるリチウムに代わる元素(ナトリウムなど)を用いた次世代電池への応用に発展することも期待されるとしている。