米国政府は2024年8月中にも、中国の半導体メーカーに対する半導体製造装置の輸出を禁止する新たな規則を公表する見通しだが、新規則では日本やオランダなど同盟国からの出荷は除外される見込みであるとする話を、米国メディアのロイターが匿名の米国政府関係者の話として7月31日付で報じている。
米国政府は7月、日本の東京エレクトロン(TEL)や蘭ASMLといった米国外の半導体製造装置企業が、中国向けに先端半導体技術を提供し続ける場合、貿易制限措置をさらに強化することを検討していると各国政府に伝える形で、両国に自主的な規制強化を求めていたとされている。
そのため中国向け出荷額が全出荷額の4割を超えるTELやASMLなどを狙い撃ちした規制強化と見られていたが、今回の動きが正しければ、両社ともにこれまで同様、中国への出荷を維持できることとなる。
米国政府の関係者による話として取り上げられた新たな規則は「外国直接製品(FDP)ルール」を拡大したもので、中国において先端半導体製造を目指す6か所の工場は、イスラエル、台湾、シンガポール、マレーシアなど新たな規則対象国・地域からの輸入が阻止されることになるという。
FDPルールは、米国製の技術やソフトウェアを用いて米国外で製造された製品に対して、米国輸出管理規則(EAR)の規制が域外適用されるルールで、具体的には、先端半導体やコンピュータなどの製品や、それらを製造する製造装置や保守サービスなどを対象としている。
日蘭の企業が除外される裏に見える各国の思惑
米国政府は日蘭の両政府に、TELやASMLなどが手掛ける半導体製造装置にFDPルールを適用する、つまり事実上の中国への輸出禁止を検討していることを伝え、同調するように要請してきたものの、日本では所管する経済産業省 貿易経済安全保障局が日本の半導体製造装置産業を守り、中国との関係悪化を避けるため米国の要請に同意しない立場で米国側と協議を重ねてきたが、7月末時点でも合意が得られていない模様である。米国側は、同盟国である日蘭に加えて韓国との良好な関係を維持するために、これら3か国を規制対象外にするのではないかという見方や、これら3か国は輸出政策の厳格化に自主的に応じる可能性が高いので規制対象外にしたという見方など、さまざまな憶測が飛うこととなっている。今回の規制は、米国の半導体製造装置やサービスが、日本やオランダ以外の第3国を経由して中国に出荷されているといううわさもあり、このような迂回輸出をけん制することを狙うものだとする見方もある。
いずれにせよ、今回の報道は、匿名の関係者からの情報に基づくもので、新規則の詳細については公表されていないため、本当に日蘭のメーカーが規制の対象外となるかどうかは不明である。
AI向けHBMも輸出規制強化の対象となる可能性
このほか、Bloombergが8月1日付で米国政府が、Micron Technology、SK hynix、Samsung Electronicsの3社が手掛けるAI向けメモリこと「HBM」の対中国輸出規制を強化する方向で検討しているとする匿名に基づく情報を報じている。
今回の一連の報道は匿名による断片的な情報を元にしたものだが、FDPルールは決して半導体製造装置のみを対象したものではなく、デバイスやソフトウェア、保守・修理サービスなどさまざまなものを包含している点に注意する必要がある。確実なのは、今後も少なくともバイデン政権下においては、対中半導体規制の強化を進めるべく、さまざまな方策の検討が進められるということだろう。