日本IBMは7月31日、IBM Institute for Business Valueが実施したグローバル調査レポートの日本語版「規制対応のためだけの『ESG報告』を超えて-企業経営にサステナビリティーを実装しビジネス価値を創出する方法とは?」を公開した。
5000人の経営層を対象にした調査
調査は世界の経営層5000人を対象に実施し、多くの組織が自社のビジネス戦略にとってサステナビリティが重要であると認識している一方、サステナビリティ投資への資金繰りに苦戦していることが明らかになった。
また、サステナビリティ活動をビジネスに実装している組織(サステナビリティ実装企業)は、他社よりも少ない資金で優れたサステナビリティと財務上の成果を上げていることが明らかになったという。
調査によると、調査対象の経営層の約3分の1(世界30%、日本32%)は、サステナビリティ戦略の実行において大きな前進(1年前の世界の経営層の10%から増加)があったと回答しているが、野心をインパクトに変えることは依然として課題となっている。
調査対象の経営層のほぼ半数(世界47%、日本40%)は、サステナビリティ投資の資金繰りに苦労しており、10人に6人(世界59%、日本66%)が財務上の成果とサステナビリティの成果の間でトレードオフを余儀なくされていると回答している。
サステナビリティ実装企業は、規制当局への報告や企業プロジェクトとしてのサステナビリティなど、特定分野にのみ焦点を当てた企業とは明らかに異なる結果を示している。世界のサステナビリティ実装企業は、サステナビリティへの取り組みによって収益が大きく向上した割合が75%高く、収益性では他社を上回る割合が52%高くなっているという。
この調査結果は、多くの組織が事業価値や成果よりも、複雑で多様な報告要件の管理に重点を置いていることを示しているとのこと。サステナビリティの「報告」にかける費用が、サステナビリティの「イノベーション」にかける金額を43%上回っていることが判明している。
資金調達やスキル向上、行動の運用化は依然として課題
調査対象となった経営層のうち、サステナビリティ関連のデータやインサイトを業務改善に活用していると回答したのは約3割(世界31%、日本33%)に過ぎず、「イノベーションに活用している」と回答したのは世界で14%、日本で18%となった。組織はサステナビリティの追求を続けているが、資金調達やスキルの向上、行動の運用化は依然として課題となっているようだ。
さらに、調査対象となった経営層の約7割(世界75%、日本66%)は、サステナビリティがより良い業績をもたらすことに同意し、7割以上(世界76%、日本78%)はサステナビリティが事業戦略の中心であることに同意。それと同時に、経営層の約7割(世界69%、日本67%)は、組織においてサステナビリティにより高い優先順位をつける必要があると回答している。
加えて、経営層の8割以上(世界82%、日本88%)が持続可能な成果を達成するためには高品質なデータと透明性が必要であることに同意している一方で、ERP(財務、人事、サプライチェーン)、企業資産管理、CRM、エネルギー管理、設備管理といった基幹システムからサステナビリティ関連データを自動的に取得できる組織は4割に過ぎないという。経営層の約4割(世界39%、日本41%)は、サステナビリティの進展を阻む最大の障壁として、必要なスキルの不足を挙げている。
また、経営層の約6割(世界64%、日本59%)は、生成AIがサステナビリティーへの取り組みにとって重要になることに同意し、約7割(世界73%、日本71%)はサステナビリティのために生成AIへの投資を増やす予定だと回答。
サステナビリティを実装するための5つの提言
一方、サステナビリティ実装企業は、組み込んでいない組織と比較して、サステナビリティに特化した取り組みにかける経費が、収益に占める割合で若干少なく、世界のサステナビリティ実装企業の53%は活動への投資を正当化するためにはビジネス面での利益が不可欠であると回答している。
さらに、世界のサステナビリティ実装企業は、データとサステナビリティ戦略の整合性をとっている割合が191%高く、サステナビリティのためにAIを活用している割合が80%高い結果となっている。
日本語版の考察の中では、サステナビリティを組織全体に実装するためのステップとして、以下の5つの内容を提言している。
- サステナビリティー経営に移行するリスクと機会を特定し、企業戦略の柱に据える
- 特定したリスクや機会をどの事業領域で対応するか決定し、実行する
- サステナビリティー経営の取り組みを社内外に開示しステークホルダーと対話する
- 社会的な企業価値の向上と経済価値の向上を同時に実現するためのイノベーションを創出する
- 企業だけでなく従業員も働く上でのパーパスを持つことで、企業文化を育てる