アストロスケールは、2024年2月に開始した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(Active Debris Removal by Astroscale-Japan:アドラスジェイ)」のミッションにおいて、観測対象としていたデブリの周回観測に成功したことを発表。周囲からデブリの様子を撮影したタイムラプスを公開した。

運用を終了した衛星などのデブリは“非協力物体”と呼ばれ、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御などの協力が得られず、軌道上の障害物となることが問題視されている。そのため、非協力物体の劣化状況や回転レートなどといった軌道上での状態を把握しつつ、当該デブリに対して安全かつ確実にRPO(ランデブー・近傍運用)を実施することは、デブリ除去を含む軌道上サービスの提供に向けて不可欠な技術である。

アストロスケールが開発したADRAS-Jは、実際のデブリへの安全な接近を行うとともに、近距離でデブリの状況を調査するという世界初の取り組みに向け、2024年2月に打ち上げられた。その後順調に運用が進められ、5月にはデブリの後方約50mまで接近に成功。その後複数回の定点観測および周回観測を実施し、成功を収めた。

同社によると、今般実施された周回観測では、一定の距離を保ちながら物体の周りを飛行するという点で、RPOの中でも非常に高度な技術の実証に至ったとのこと。6月に実施した1度目の周回観測では、デブリの周囲を3分の1程度(約120度)周回したところでデブリとの相対姿勢制御の異常を検知し、自律的にアボート(衝突を回避するためのマヌーバを実施し安全な距離へ退避すること)が行われた。なおこれにより、ADRAS-Jが非協力物体の周囲を飛行しながらでも安全を確保できることが実証されたとする。

そしてその後、退避していたADRAS-Jを再度観測対象のデブリに接近させたのち、デブリの周囲を約50mという距離を維持しつつ姿勢を制御しながら360度周回飛行する運用を実施。太陽や地球からの証明条件がダイナミックに変化する中で、デブリの極めて鮮明な連続撮影に成功したとしている。

これに際しアストロスケールは、ADRAS-Jがデブリの周囲観測にて撮影した観測対象のタイムラプス映像をYouTube上で公開。これらは7月15日・16日に撮影されたとのことで、望遠および広角での映像となっている。

アストロスケールが公開したデブリの映像

通信衛星や地球観測衛星などといったRPOを目的としない人工衛星では、自身の姿勢制御や軌道維持、デブリとの衝突回避機能、そして大気圏再突入や墓場軌道への離脱の機能以外は、基本的に地球を周回するのみであるため、特定の物体に接近したりその周囲で近傍作業を行ったりする必要はなく、昨日自体を有していないことがほとんどだ。しかし、軌道上の持続可能な利用に向けては、対象となるデブリや衛星などの特定の物体に接近し、必要に応じて捕獲する必要が生じるため、対象物体への安全な接近や近傍作業といった難易度の高い運用が必要となる。

アストロスケールは、今回のADRAS-Jの運用により、非協力物体に対する周回観測の実証に成功したことで、軌道上サービスの提供に向けてRPOの実績をさらに積むことができたとする。

またADRAS-Jミッションは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施する商業デブリ除去実証のフェーズIとして実施されており、同社はフェーズIIとなるデブリの捕獲や軌道離脱に関するミッションに向けて、ADRAS-J2の開発を進めているとのこと。なお今回実施した3回の周回観測では、ADRAS-J2でデブリ捕獲箇所として想定している衛星分離部(PAF)に大きな損傷が見られないことが明らかになったといい、これまでの衛星運用実績やこれらの取得データも、ADRAS-J2のミッションに向けて活用するとしている。