公的年金財政の長期見通しを示す5年に1度の「財政検証」が公表された。過去30年の実績を基に中長期の実質経済成長率がマイナス0.1%と見込んだ場合でも、2060年度に65歳世帯が受け取れる年金は、現役世代の平均手取り収入の50.4%を確保できるとの結果が示された。外国人の入国超過や女性・高齢者の労働参加が想定以上に進むためだ。
株高や円安で積立金運用が今後も順調に進みそうなことも追い風になった。順調政府関係者は「前回の検証時より改善した。少なくとも、公的年金財政が危機に瀕しているとは言えない」と胸をなで下ろす。
ただ、将来世代の年金給付財源を確保するため、支給額を物価や賃金の伸びより抑える減額調整は57年度まで続く。放置すると、非正規雇用が多い現在40~50代の「就職氷河期世代」が老後に低年金化するリスクが高く、政府は来年の次期制度改正で対策を講じる方針だ。
厚生労働省は対応策の一つとして国民年金の保険料納付期間を現行の40年間(20~59歳)から45年間(20~64歳)へ5年延長する案を昨年から検討していた。無職や自営業者の人に5年間で約100万円の追加の保険料負担が発生する一方、65歳以降の給付額は年約10万円増えるという内容だ。
近年、65歳まで働く人は増えているものの、「足元の物価高で実質賃金が下がり続ける中、保険料を追加負担させるのは約束違反だ」との批判が与野党から相次いでいた。
このため橋本泰宏年金局長(当時)は財政検証結果を示した3日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会で、国民の理解が進んでいないとして保険料納付の5年延長案の実施見送りを表明。
橋本氏は「苦渋の判断。我々の力不足だ」と述べたが、その半面で省内では「政治的に絶対無理だと思っていた。厚生年金を適用する短時間労働者をさらに増やす案など低年金対策は他にも選択肢がある」と安堵の声が漏れている。