宇都宮大学(宇大)、常葉大学、筑波大学の3者は7月26日、眼球運動および両手協調運動を組み合わせたトレーニングによって、アスリートのバランスを即時的に安定させることを見出したと共同で発表した。

同成果は、宇大 共同教育学部の松浦佑希准教授、筑波大の坂入洋右教授(現・常葉大所属)らの共同研究チームによるもの。詳細は、スポーツ医学に関する全般を扱う学術誌「Open Access Journal of Sports Medicine」に掲載された。

今まさにパリオリンピックが開催中だが、スポーツでは身体を極限まで使う必要があるため、どの競技のアスリートにとってもケガはつきものであり、ケガでその競技の継続を断念せざるを得なくなった選手も多い。そうしたケガのリスクを減らせるトレーニング方法も近年は発達してきており、今では「バランストレーニング」が知られている。同トレーニングはスポーツにおけるケガのリスクを軽減させるだけでなく、機能的パフォーマンスの向上に役立つことが示されている。

これまで主にバランストレーニングとして実施されてきた内容としては、安定/非安定面上での開眼/閉眼状態での両足/片足の立位、バランストレーニングと筋力トレーニングを組み合わせたトレーニングなどが挙げられる。これらは長期的なトレーニングによって効果が得られることが確認されているが、ウォーミングアップとして行う場合は注意が必要とのことで、その運動直後にバランスを改善する効果はなく、短期的にはアスリートのバランスの安定に悪影響を及ぼすことが報告されているという。

ウォーミングアップは、筋繊維の伝導体性感覚系、体性感覚系の効率などを高めるなど、最適なパフォーマンスを達成するために必須のものであり、そのような場面で即時的にバランスを改善するウォーミングアップ運動も必要であるといえる。そこで研究チームは今回、姿勢やバランスの維持に直接的に関わる前庭系に直接的にアプローチをすることによってバランス能力を改善させる“眼球運動”に着目したとする。眼球運動によってバランスを改善させる効果については、脳卒中などのリハビリテーションの分野中心にして研究報告がなされている。また姿勢やバランスの維持には、前庭系だけでなく、小脳も深くかかわっていることから、小脳による制御および活性化と深く関わる両手協調運動も着目された。

そこで今回の研究では、前庭系に対して有益である眼球運動と、小脳を活性化させる両手協調運動を組み合わせて実施することにより、バランスに対してより有益な効果が得られるという仮説を立て、検証したとのことだ。この実験には、健康な大学生アスリート30名が参加し、以下の3条件のトレーニングが実施された。

  1. 眼球運動
  2. 両手協調運動
  3. 眼球運動と両手協調運動を組み合わせた運動(1+2)

眼球運動については、追跡運動(2つ)と適応運動(4つ)からなる6つのエクササイズでプログラムが構成された一方、両手協調運動については、同位相の両手協調運動(3つ)と逆位相の両手協調運動(3つ)が用意された。さらに組み合わせ運動については、追跡運動(1つ)と適応運動(2つ)、同位相の両手協調運動(2つ)と逆位相の両手協調運動(1つ)からなる6つのエクササイズからなるプログラムとされた。なおいずれのプログラムも、5分ほどの実施時間だという。

  • 眼球運動および両手協調運動の運動例

    眼球運動および両手協調運動の運動例(出所:共同プレスリリースPDF)

そして実験の結果、眼球運動と両手協調運動を組み合わせた運動は、バランス時の偶発的な大きな揺れを減少させ、姿勢の安定性を即時的に高めることが確認されたとのこと。眼球運動あるいは両手協調運動を独立して実施した場合も、バランス時の偶発的な大きな揺れについては、即時的に減少させることが確認された。以上の結果から今回の研究では、眼球運動および両手協調運動はバランス時の偶発的な揺れを即時的に減少させること、それら組み合わせた運動ではさらに姿勢の安定性を高める効果があり、アスリートの即時的なバランス調整方法として有効である可能性が示されたとした。

  • トレーニング前後の重心動揺指標の変化量の比較

    トレーニング前後の重心動揺指標の変化量の比較。(A)単位時間軌跡長の変化量。(B)重心動揺面積の変化量(出所:共同プレスリリースPDF)

研究チームによると、今後は今回の研究で実施された運動を長期的にウォーミングアップとして実施し、各アスリートの実際のパフォーマンス発揮場面への効果を検討する意義があるという。また、従来実施されているバランストレーニングに今回の研究で実施された運動を加えることで、よりバランスの改善効果が得られる新たなトレーニングとしての活用可能性も考えられるとしている。