岡山理科大学、東京都市大学(都市大)、香川県さぬき市の3者は7月24日、1986年に香川県で発見された背骨化石を白亜紀のさまざまな恐竜やその他の爬虫類と比較した結果、同化石が「ハドロサウルス類」の背骨であることを同定したと共同で発表した。
同成果は、岡山理科大 生物地球学部 生物地球学科の林昭次准教授、都市大 理工学部 自然科学科の中島保寿准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、古生物とその関連する領域全般を扱う学術誌「Paleontological Research」に掲載された。
1986年10月21日、香川県丸亀市在住の金澤芳廣氏によって、香川県さぬき市の山中で背骨化石が発見された。しかし、何の動物の化石か判明しないまま金澤氏の自宅で保管されていたという。その後、2013年より、岡山理科大の林准教授、都市大の中島准教授、金澤氏による兵庫県淡路島の和泉層群の共同化石調査を経て、2015年9月に、金澤氏がそれまで収集してきた化石標本一式が大阪市立自然史博物館に寄贈されることになったという。同博物館に搬入され、標本の整理が開始された段階で、寄贈標本の中に恐竜らしき骨化石が含まれていることが判明。そして、今回の研究が行われることになったという。
金澤氏が発見した恐竜化石の部位は、胴椎(胴体の背骨)。そこで今回の研究では、モンゴルをはじめとした国内外の34種類のさまざまな恐竜標本と比較が行われた。その結果、中生代白亜紀に栄えた植物食恐竜であるハドロサウルス類の胴椎である判断がなされた。ハドロサウルス類は、クチバシがカモのように横に広がり、カモノハシ恐竜と呼ばれることもあり、種類によっては、頭に派手な形をしたトサカ状の突起、もしくはトサカのような軟組織があるのが特徴だ。日本においては、上述の和泉層群や北海道むかわ町などでその化石が発見されている。
金澤氏の発見した胴椎が、ハドロサウルス類であると判断された根拠は以下の4点の通りだという。
- 背骨の大きさが非常に大きく、大型の脊椎動物のものであること
- ワニ、海棲は虫類など、白亜紀の恐竜以外の大型脊椎動物の胴椎と外形が一致しないこと
- 前から見た時のハート形の輪郭は、ハドロサウルス類特有のものであること
- X線CTスキャンを用いた観察の結果、骨の内部構造が陸生動物のもの、特にハドロサウルス類と似ていたこと
ハドロサウルス類は白亜紀に汎世界的に栄えた植物食恐竜であり、特に白亜紀後期カンパニアン期(約8300万~約7200万年前の時代)の地層が分布する北米のさまざまな地域から多種多様な種類が発見されている。しかし、同時期のアジアにおけるハドロサウルス類の化石は限られた地域でしか発見されておらず、彼らがどのように多様化したのかはまだ多くの謎が残されているという。
今回、金澤氏が発見した胴椎化石がハドロサウルス類であると判定されたことで、カンパニアン期末のユーラシア大陸で最東端のハドロサウルス類化石の発見となった。これにより、アジアにおけるカンパニアン期のハドロサウルス類の地理的分布に新たな知見がもたらされたとする。
また、淡路島に分布する香川県さぬき市の地層よりも新しい時代の地層からは、「ヤマトサウルス」が発見されている。今回の化石は断片的であり、ヤマトサウルスとの類縁関係は不明だが、少なくともカンパニアン期までにはハドロサウルス類が四国地域にまで分布していたことが判明した。
さらに、今回恐竜化石が発見された地域は、モササウルス類や首長竜などの絶滅は虫類化石も多く発見されているため、中生代の東アジアの脊椎動物について理解する上で、香川県さぬき市は非常に重要な地域であることも確認されたとしている。