運には「個運」と「集団運」がある
─ 安田さんはゼロから事業を起こし、売上高2兆円の企業をつくりあげてきました。自ら人生を切り拓いてきたわけですが、最近、そのもとにあるのは「運」だと言っておられます。なぜ今、「運」に注目しているのですか。
安田 わたしは運というのは、愛と同じで、寄り添って大きくしていくものだと思っています。
別に運を支配するとか、そういう傲慢な考え方ではなく、こうしたら運は大きくなりますよというわたしなりの方法論があるんです。この方法論を一人でも多くの経営者や組織の指導者に参考にしていただきたいと考え、6月に『運』(文春新書)を発刊しました。
運を良くするにはとか、運を引き上げる方法論を書いた人はいっぱいいますが、運そのものを書いた人はいない。要するに、運を解明するというと、人知の及ばない広大無辺な宇宙のようなもので、思考停止してしまうんです。
ところが、運は確かに科学とは違うかもしれません。しかし、科学というのは再現性を確保するから科学ですよね。運は再現性を必ずしも確保するとは限りませんが、かなりの確率でこうすれば運が強くなるという法則はあるんです。
─ 再現性を高くすることはできると。
安田 はい。例えば、天気予報は必ずしも100%の再現性があるわけではありませんが、誰も非科学的とは言いませんよね。医学も同じかもしれません。
100%ではなくても、最も確率のいいことを編み出すのが天気予報であり、医学だと。わたしは運も同じで、再現性が担保できないから非科学的だという考え方は違うと思います。
運を強くする方法と言っても、手相や風水という類の話ではありません。そういうことではなく、いかにわたしがゼロから売上高2兆円の企業をつくることができたのか。
それは決して、わたし個人の力だけでできることではありません。その方法論を本に書いたということです。
─ その骨子は何ですか。
安田 わたしは運には「個運」と「集団運」があると考えています。個運は個人の運、集団運は集団で運が良くなると。
1989年以降、多くの企業のみならず、日本全体が、徹底的に集団運に見放されているのです。
─ 1989年はバブル経済のピークでもあり、安田さんが『ドン・キホーテ』1号店を出店した年ですね。
安田 そうです。バブルが崩壊してから日本は集団運に見放されたわけですが、その時に当社は産声を上げました。当社がやってきたことは徹底的に集団運を上げることです。
1968年、日本は国民総生産(GNP)で当時の西ドイツを抜き、世界2位の経済大国になりました。敗戦後、わずか20数年でそこまで成長することができたのは、未来が良くなると思って、死に物狂いで頑張ったからです。それで集団運が熱を帯びた。高校野球でいえば、大した戦力もない高校が甲子園で優勝してしまったと。日本全体にそうした熱気に近いものがあったと思うんですね。
ところが、1989年以降は一気に集団運が下がってしまった。これは一気に伸びる過程で、いろいろな風圧がものすごく強くなるし、弊害も沢山出てくるわけです。