TDCソフトは7月23日、都内で同社における取り組みや直近の業績などに関する説明会をメディア向けに開催した。
「世の中をもっとSmartに」をパーパスとするTDCソフト
同社は国内における独立系システムインテグレーターだ。「技術へのこだわり」「長期安定顧客」「個人を大切にする企業文化」の3つの特徴を備え、パーパスは「世の中をもっとSmartに」と定めている。
TDCソフト 取締役執行役員 兼 経営企画本部長の大垣剛氏は自社のパーパスについて「あらゆる変化と真摯に向き合いながら、技術と挑戦の力で社会の効率性や利便性、信頼性などを向上させて、持続可能な未来を創造していくことが必要だと考えている」と述べた。
同社の歴史は長く、今年で創業62年を迎え、従業員数は2024年4月時点で2335人。1962年に創業者が日本IBMと穿孔機の賃貸借契約を国内で初めて個人で締結し、パンチセンターとして創業。創業3年目に計算センター業務に変更するものの、1971年に技術力をベースとしたソフトウェア開発で事業成長を目指し、ソフトウェア業に転換した。
その後、1992年~1994年にバブル経済の崩壊に伴い売り上げが下降線をたどるが、2002年に東証第一部(現・プライム市場)に上場。2022年4月に中期経営計画「Shift to the Smart SI Plus」を策定し、2025年3月期の連結売上高400億円を目標に据えた。しかし、2024年3月期に連結売上高が前年比12.6%増の396億9800万円を計上したことから、当初の目標数値を430億円に上方修正しており、業績は好調に推移している。
各事業セグメントの概況
事業セグメントとしては「金融ITソリューション」(売上比率44%)、「公共法人ITソリューション」(同27%)、「プラットフォームソリューション」(同12%)、「ITコンサルティング&サービス」(同17%)の4つだ。
金融ITソリューションは、金融業界向けにシステム化の構想・設計・開発・保守など総合的なITソリューションを提供しており、好調なシステムのクラウド化やモダナイゼーション(近代化)の需要を背景に、クレジット、銀行系を中心に拡大している。
公共法人ITソリューションは、流通業や製造業、サービス業、公共向けにシステム化の構想・設計・開発・保守といった総合的なITソリューションを提供。公共系の大規模案件や運輸系の需要が成長をけん引しており、引き続き顧客の戦略パートナーとしてIT企画から支援を行うビジネス拡大を図る。
プラットフォームソリューションは、ITインフラの環境設計・構築・運用支援・ネットワーク製品開発・ネットワークインテグレーションなどを提供し、新たな付加価値を創造し、クラウドニーズの継続により事業自体は堅調に拡大する見込みだという。
ITコンサルティング&サービスは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けたIT戦略、システム化構想の立案、技術コンサルティング、自社アプリ、BI(ビジネスインテリジェンス)/DWH(データウェアハウス)、ERP(Enterprise Resource Planning)、CRM(顧客関係管理)などのソリューションサービスを提供。SaaS(Software as a Service)、iPaaS(Integration Platform as a Service)といったクラウド系ソリューションが堅調となっており、収益性の高いプライム案件を拡大させていく方針だ。
次世代型システムインテグレーターに向けた3つの主要戦略
一方、近年の同社におけるビジョンは「次世代型システムインテグレーター」を掲げている。その定義について、大垣氏は以下のように説明した。
「市場や社会の潜在ニーズを捉えて準備することで、新たな潮流に対応した付加価値の高いITサービスを提供し、スマートな世の中の実現に貢献することを意味する。つまり、お客さまの潜在ニーズを捉え、提案する力を具備することが次世代型のシステムインテグレーターということ。見えないニーズに対して提案することで、社内では“お節介であれ”という言葉があり、それぐらいのサービスを提供していくことを目指している」(大垣氏)
こうしたビジョンのもと、同社では「高付加価値SIサービスの追求」「SIモデル変革の推進」「事業領域の拡大」の3つを主要戦略としている。
高付加価値SIサービスの追求
高付加価値SIサービスの追求では、スキームとして「Technology Beyond」を用意し、今後の社会やビジネスにインパクトもたらす先進技術や市場動向をふまえ、将来の変化を予見し、注力分野を見定める。
Technology Beyondでは、従来からの「データアナリティクスプラットフォーム」「クラウドネイティブアーキテクチャ」「UXD(顧客体験設計)」「セキュリティ」「オートメーションマネージドサービス」のほか、新たに「ネットワークデザイン」を加えた。短期的には既存事業とのシナジー関係に加え、3~5年先の未来を意識して毎年度に技術投資すべき分野を社内のトップエンジニア、経営陣で議論し、選定していく。
こうした活動を開始する以前には「アジャイル」へ投資しており、結果として大規模組織むけアジャイルフレームワーク「SAFe」(Scaled Agile Framework)を軸とした、エンタープライズアジャイル事業本部を昨年に設立。高付加価値サービスとユーザーコストの低減を両立したインテレグレーションサービスである次世代型SI事業は、アジャイル開発やクラウド分野がけん引し、売上高は5年間で5.3倍、売上高構成比率は25.5%に拡大している。
SIモデル変革の推進
SIモデル変革の推進では、昨年度に「PROJECT IQ」と呼ぶ、プロジェクトパフォーマンスの評価を可視化するシステムを導入。具体的には、プロジェクトの推進に必要なスキル要素と体制(要員構成)を可視化し、プロジェクトのパフォーマンス評価を可能にするものとなる。
また、昨年10月に本社機能を九段会館テラス(東京都千代田区)に移転。新オフィスは壁を最小限にして多機能ゾーンを配置し、快適な作業スペースを確保するとともに、効率的な作業とコミュニケーションを促進できる場を実現することで、生産性や技術者のエンゲージメントの向上を目指している。
事業領域の拡大
事業領域の拡大に関しては、コンサルティング事業とサービス製品販売事業に注力することでケイパビリティを獲得して事業領域を拡大を進めている。2023年度のコンサルティング事業とサービス製品販売事業は前年比50%増の15億3200万円となった。
コンサルティング事業について、TDCソフト 執行役員フェロー コンサルティング本部 本部長の上條英樹氏は「お客さまのビジネスアジリティを向上させるために、ともにハンズオンで支援するコンサルティングが中心となる。戦略コンサルから業務コンサル、ITコンサル、テクニカルコンサル、プランニング、アセスメントなどさまざまなものを組み合わせて仕組み作りや育成を行う」と説明した。
サービス製品販売事業の拡大に向けて、マーケティング機能やプロダクトセールス機能の拡充に加え、コンサルティング事業ではノウハウのアセット化、これを用いた要員育成などで拡大に向けた施策を進める。
他方で課題もある。大垣氏は「人材の確保と育成は、3つの主要戦略の共通事項でもある」と話す。そのため、今後はエンゲージメント向上の施策の一環としてブランディング戦略の推進と新人事制度の導入、ワークプレイス戦略を実施することに加え、採用体制の拡充やエデュケーション施策の強化などを推進していく考えだ。