気象庁、東京大学(東大)、北海道大学(北大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の4者は7月19日、歴代1位の暑夏となった北日本の2023年夏について、同年8月に開催された異常気象分析検討会において、その原因の1つとして近海の記録的に高い海面水温が挙げられたが、さらなる調査の結果、海面水温の極端な高温が続く現象である「海洋熱波」により、下層雲の形成が妨げられて日射が増大したこと、海洋が大気を直接加熱したこと、大気中の水蒸気が増えて温室効果が強まったことが、北日本の暑夏に大きな影響を与えた可能性が高いことがわかったと共同で発表した。
同成果は、気象庁 気象研究所の佐藤大卓氏、異常気象分析検討会の中村尚会長(東大 先端科学技術研究センター(RCAST)教授兼任)、同・谷本陽一委員(北大大学院 地球環境科学研究院 教授兼任)、同・野中正見委員(JAMSTEC 付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ グループリーダー兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
2023年夏(6~8月)、北日本近海は1985年以降で夏として最も海面水温が高く、海洋熱波が発生した。特に三陸沖では、海洋表層の深さ300mに至るまで過去に例のない顕著な高温となっていたと観測された。これは、通常冷たい親潮系の水が占める海域が、2023年夏は黒潮続流の顕著な北上に伴って暖かい黒潮系の水で占められていたためと考えられる。そして同年夏は、1898年の統計開始以降で、日本の平均気温が最も高くなったことも観測されており、北日本では1946年の統計開始以降で歴代1位の暑夏となり、特に太平洋側で著しい高温となった。
異常気象分析検討会により、その一因として、周辺海域での海面水温の顕著な高温状態が影響した可能性が指摘された。しかし、この海洋熱波が北日本の記録的猛暑に影響を与えた詳細な過程は未解明だったという。そこで研究チームは今回、北日本近海の持続的な海洋熱波が大気の高温状態に影響した可能性をさらに調査したとする。
三陸沖から北海道太平洋沖にかけての海域の気温と水温の平年差の鉛直分布を解析したところ、2023年は、大気下層の高度約3000m(700hPa)以下の気温が全体的に過去と比べて著しく高く、とりわけ地表付近(高度約800m(925hPa)以下)で、平年差が最大だったという。これは、2023年夏の地上の異常高温の要因が、上空の大気循環の変動に加えて、大気と接する海洋側にもあることを想起させるものとする。実際に海洋表層の水温は、黒潮続流の顕著な北上の影響により、海面付近の海洋熱波の状態に加え、海洋表層の少なくとも深さ300mに至るまで、過去と比べて突出して高くなっていた。これらの気温・水温の平年差の鉛直分布は、2023年夏の地表付近の高温が、黒潮続流の北上に伴う顕著に高い海洋表層の水温によって維持されたことが強く示唆されているとしている。
さらに、海洋熱波が北日本の高温にどのような過程で影響したのかを調査した結果、(1)顕著に高い海面水温によって、海面付近の大気の安定度が低くなったことに伴って下層雲量が顕著に減少し、それによって日射量が増加したことで、沿岸地域の高温やさらなる海面水温の上昇がもたらされたこと、(2)三陸沖では、海洋よりも大気が加熱されたこと、(3)地表付近の大気が平年に比べて高温多湿に保たれたため、水蒸気による温室効果が強化され、その多湿化には南方から輸送される水蒸気に加え、海洋熱波に伴って海面からの蒸発が活発だったことも寄与したこと、の3点が考えられるとした。
今回の研究により、北日本近海の海洋熱波が地上の異常高温に影響を及ぼした可能性が示された。大気に比べてゆっくりした海洋の変動は、季節予報の予測可能性を高める重要な意味を持つという。通常、季節予報では熱帯の海洋変動が大気循環に与える影響を主な根拠としており、中緯度海洋が地上気温などの天候に与える影響については、まだ季節予報の根拠とするには現時点では困難とする。このような中緯度海洋の顕著な高温の持続が大気へ及ぼす影響について理解を深めることは、その影響を考慮した予報の組み立てや季節予報モデルの評価・改善を通じて、季節予報の予測精度向上につながると期待されるとしている。
また日本近海は、世界平均に比べて地球温暖化に伴う海面水温の上昇率が特に大きい海域だ。地球温暖化の進行に伴って異常高温のリスクが高まる中、このような近海の海洋熱波が地上の異常高温に与える影響について理解を深め、その予測精度を高めていくことは、気候変動対策の観点からとても重要だという。今後も、異常気象の分析を進め、気候変動対策の取組に貢献していくとしている。