蛇口からでる水道水に含まれるミネラルなどの無機成分を、東京大学のグループが2019~24年に47都道府県1564地点で測定した。日本の水は世界保健機関(WHO)でミネラル分の少ない軟水に分類されるが、関東地方でカルシウム(Ca)やナトリウム(Na)など7つの主要無機成分の濃度が高めとなるなど各地で異なることが分かった。微量金属成分の含有に地域的特徴はなく、供給配管や蛇口設備などのインフラに依存しているとみられる。
主に分析を担った東京大学教養学部附属教養教育高度化機構の堀まゆみ特任助教(環境分析化学)は、2015、16年に六価クロムの地下水や土壌の汚染、その無害化プロセスを研究していた。研究で使う背景データとして水道水に含まれる無機成分の平均値が必要となったが、文献で探しても見つからなかった。「有害物質については研究が進んでいても、環境中に普通に見られる元素については網羅的に調べていないようだ」と気づき、19~24年にかけて蛇口から出る水道水を集めた全国調査を開始した。
ICP発光分光分析装置とイオンクロマトグラフィーを用いて主要無機成分であるCa、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、Naなど7成分の濃度と、CaとMgの濃度から換算できる硬度、微量金属成分であるアルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、鉛(Pb)など20成分の濃度を調べた。その結果、水中に比較的多く含まれミネラルとも呼ばれる主要無機成分については、関東地方、特に千葉県で濃度が高い傾向があった。
主要無機成分の濃度が千葉県で特に高い理由として、水道水の取水源となる利根川が関係しており、堀特任助教は「いろいろな地質に触れ、人が住んでいる場所を長い時間かけて流れてきた最下流で取水しているからではないか」と話す。
年間を通した水質変動を検討するため、東京都杉並区と東京都武蔵野市、新潟市の3都市で同じ地点の水道水とその原水(河川水や地下水)を月2回、約2年間モニタリングすると、原水と水道水で、主要無機成分濃度の増減傾向が一致していた。主要無機成分は、水道水を取水する原水に由来すると考えられる。一方で微量金属成分は異なる挙動を示した。
全国的にも飲料水基準を超える成分はNaやPb、亜鉛(Zn)などを17地点で観測したが、蛇口が古いなど配管周りに原因があると疑われる事例だった。微量金属成分の濃度変動の要因は供給配管や蛇口設備など地域インフラに依存していることが示唆された。
日本では99%の蛇口の水道水が国内基準値内で品質が良好であり、世界33カ国・194地点で実施した同様の調査と比較しても安全性が高いことが裏付けられた。そのうえで堀特任助教は「故郷の水が好まれるなど、各人がおいしいと思う水が多様であるのは、国内の水のバリエーションの広さも関わっているだろう」と話している。
一方、国内では多くの水道管の老朽化が進み、水質を維持するための評価や公衆衛生の確保が必要とされている。今回の水道水質の調査・評価は各地域の特性に応じた水道水の管理と改善策を策定する基盤の情報にもなるという。堀特任助教は、「環境分野のみならず、様々な分野で基礎データとして活用して欲しい」として集めたデータをマップ上に示して公開している。
研究成果は、英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」電子版に6月19日掲載された。
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