さまざまな免疫疾患などの発症に関わる遺伝的変異部位約600カ所を特定した、と理化学研究所(理研)と京都大学などの共同研究グループが発表した。約100万個もの免疫細胞の遺伝情報を細胞単位で解析した成果で、難病の一つでもある自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症メカニズム解明や治療法開発につながると期待される。
理研生命医科学研究センターの村川泰裕チームリーダー(京都大学教授兼務)と小口綾貴子 リサーチアソシエイト(同大学特任研究員)、小松秀一郎客員研究員らの研究グループは、まず「プロモーター」「エンハンサー」と呼ばれる遺伝子発現を制御するDNA配列部位の活性を計測する「1細胞エンハンサー解析法」という独自の手法を開発した。
そしてこの手法を駆使してヒトの免疫機構をつかさどる「ヘルパーT細胞」約100万個の遺伝情報を細胞単位で分析した。ヘルパーT細胞はウイルスなどの抗原の情報をやはり重要な免疫細胞であるB細胞に伝えて抗体産生を誘導するなど、免疫機構の司令塔の役割を担う。
この作業では、ヘルパーT細胞の大きな集団の中でこれまで報告されていない希少な小さい細胞集団(亜集団)を発見。さらにこれらの亜集団で活性化しているエンハンサー領域を同定した。これを多人数のゲノム情報を調べる「ゲノムワイド関連解析」で既に判明している自己免疫疾患やアレルギー疾患関連の数百カ所以上に及ぶ遺伝的変異部位と重ね合わせて解析した。
その結果、免疫疾患の発症に関わる遺伝的変異を持つヘルパーT細胞のエンハンサー約600カ所(疾患エンハンサー)を特定することに成功した。これらの疾患エンハンサー領域には多発性硬化症や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患やアレルギー疾患に関連する遺伝的変異が高い倍率で濃縮されていて、病気の発症との関連がはっきり示されたという。
研究グループはさらに、疾患エンハンサーが接近して働きかける遺伝子(標的遺伝子)を推定することにも成功した。これは、自己免疫疾患やアレルギー疾患がどのような経路で発症するかを明らかにして、これらの疾患に関わる分子を数多く特定したことを意味する。
自己免疫疾患は、免疫機構が正常に機能しなくなって体内の物質も異物と認識して攻撃することにより、炎症が起きたり組織が損傷したりして発症する。さまざまな種類の疾患があるが、詳しい発症メカニズムは分かっていない。多くの診療現場では免疫反応を抑える薬剤が投与されるが、根治治療が困難で慢性に移行する場合が多い。
研究グループは「今回の成果は、自己免疫疾患やアレルギー疾患の新しい治療法の開発に貢献すると期待できる」としている。
研究グループには理研、京都大学や、東京都医学総合研究所、東京大学医科学研究所、横浜市立大学、三重大学、九州大学のほか、海外からイタリア分子がん研究所やスウェーデンのカロリンスカ研究所も参加した。研究成果は4日付の科学誌サイエンス電子版に掲載された。
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