冨山和彦の【わたしの一冊】『「働き手不足1100万人」の衝撃』

人手不足社会の到来に関する国民的な意識転換が必要

 為替とインフレの先行き、地政学リスク、環境問題、AIのインパクト……。私たちの周りは不確実な事象であふれ、様々な未来が語られる。しかし、過去を振り返ると、そうした未来予測の多くは当たらない。その中で唯一確実に当たるのが人口動態予測と言われる。現在の人口構成と出生率で、30年後の未来はほぼ決まっているからだ。

 本書は少子高齢化によって我が国に確実にやってくる人手不足の社会と経済が、私たちの未来にどんな状況をもたらすかを緻密かつリアルに描き出している。

 著者は経産官僚出身でリクルートワークス研究所の主任研究員である古屋星斗氏をはじめ、組織と人材に関する気鋭の研究者たち。

 人手不足の未来を生きる当事者世代であり、それゆえに色々な分野で起きることについて、不都合な未来に目を背けず、迫力あるシミュレーションが展開される。医療介護、物流、警察やインフラメンテ等々、労働集約的な「エッセンシャルサービス」がどんな厳しい状況に陥るか。昨今、タクシー運転手不足問題が顕在化し、ライドシェア解禁の議論が盛り上がっている。ただ、その議論の多くが二種免許の緩和や外国人労働者活用、限定的なライドシェア規制緩和で交通難民問題は解決する、逆に解禁を急ぐと、供給過多になってワーキングプア問題が懸念されるという調子。

 本書によれば、2040年には1100万人の人手不足に陥る。今の人手不足はまだまだ序の口。多少の規制緩和や外国人労働者の受け入れでは運転手不足は到底解決しない。認識のずれは実に甚だしい。

 こう書いてくると、人手不足社会の未来は暗いように見えるが、見方を変えると我が国の経済と社会が大きく変容し、再成長軌道に乗るチャンスでもあると本書は説く。私もまったく同感だ。しかし、そのためには人手不足社会の到来に関する国民的な意識転換が必要である。その意味で、本書は全国民が読むべき啓蒙書である。

【著者に聞く】『仕事の心得』デジタルシフトウェーブ社長・鈴木康弘