岩谷技研は、7月17日に北海道十勝地方にてフリーフライト有人飛行試験を行い、気球による有人飛行で過去最高となる最大到達高度2万816mの成層圏に到達したことを発表した。
岩谷技研では、高高度ガス気球に気密の有人キャビンを備え付け、成層圏の高度1万8000~2万5000mを飛行し、地球と上空の宇宙空間を船内から遊覧することが可能な「宇宙遊覧フライト」の実現を目指し、キャビンなどの開発を進めている。このフライトは、特別な訓練や宇宙服などの装備が必要なく、誰でも気軽に宇宙遊覧が可能となることを特徴としている。
有人宇宙遊覧プロジェクトは2020年7月に始動し、2022年2月に福島での有人係留飛行試験(この時の高度は30mで、T-5キャビンが使用された)以降、徐々に高度を上げながら毎月のように北海道内を中心に飛行試験を実施。2023年11月からは2人乗りのキャビン「T-10タイプ」を投入して試験を実施し、2024年6月にはパイロット1名の有人自由飛行試験で高度1万555mという対流圏と成層圏の境目の高さにまで到達していた。
そして7月17日に行われた試験は、「宇宙遊覧フライトで使用するものと同型のキャビンおよび生命維持装置の成層圏低圧環境下での運用試験および自社気球による高度2万m付近の高度帯への到達実証」を目的として、北海道士幌町から午前2時40分に離陸。今回は、今後商業運航で使用する機体と同型の2名乗り与圧キャビン(T-10-X)を使用し、前月のおよそ2倍となる最高高度2万816mの成層圏に到達した。その後、気球は午前7時36分に無事に北海道帯広市に着陸。今回の試験は時間で5時間弱、距離にして約40kmの飛行となった。
今後実現を目指す商業運航本番では、飛行高度1万8000~2万5000mの運航を想定しており、今回同程度の高度帯に到達したことで、気球による宇宙遊覧フライトの商業運航実現に大きく近づいたとする。通常、民間の大型ジェット旅客機などは高度1万2000m位を飛行するため、今回の高度2万mはそれよりも遥かに高く、米空軍のU-2偵察機などが飛行する最高高度がおよそ2万mである。この高さまで来ると地球の丸さがわかり、空も夜空のように暗くなる。ここから上が宇宙とされる境目である高度100km(10万m)のカーマンラインを超えるような高さではないが、特殊な訓練も宇宙服も無しでこの高さまで飛べる体験は、貴重なものとなるだろう(U-2偵察機に民間人が搭乗したドキュメンタリー番組などもあるが、その際も、一定期間の訓練と特殊なスーツを着用していた)。
なお岩谷技研は今後の課題として、「気象条件・電波状況に合わせた各種航行支援システムの運用」、「船内結露の解消(視認性の向上)」、「気象条件に合わせた着陸コントロール技術の向上」を挙げている。
同社では今後、今回の飛行試験で明らかになった課題点について各種検証を行い、利用者を乗せた本番飛行へ向けて、引き続き飛行試験および開発を進めていくとしている。