「米国は広大なインド太平洋地域で、最も信頼できる同盟国・日本の実力に着目するようになっている」─。ロシア・北朝鮮両国の脅威や中国による台湾有事への懸念など、地政学的リスクが高まっている。ロシアと北朝鮮が事実上の軍事同盟を締結、それに先立ち、日米両政府は都内で防衛装備に関する会合を開催した。1960年の日米安全保障条約の発効から約65年、日本の外交・安全保障をどう再構築するべきか。元防衛大臣の森本氏による特別寄稿―─。
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日米同盟の新たな転換点
日米同盟の基盤たる日米安保条約改訂(1960年)以降、間もなく65年になる。この間、日米安保体制は、いくつもの試練に直面しながらも、これを乗り越えてきた。米国は日本の安全確保に貢献し、日本は米国に支援と協力を惜しまなかった。日米同盟が両国の安定と繁栄にとって、不可欠の存在であったからである。
しかし、日米同盟を取り巻く環境はますます厳しくなってきている。中国、ロシア、北朝鮮のもたらす不安定要素に一国のみで対応することは、もはや、困難になりつつある。領域横断の分野(宇宙・サイバー・情報・先進技術など)については、なおさらである。
日米両国は今まで築いてきた同盟の抑止機能を一層強化することが迫られている。とりわけ、米国は広大なインド太平洋(地球の半分を占める)地域で、最も信頼できる同盟国・日本の実力に着目するようになっている。
それは、同盟国が米国の力を補備しなければならないような状況が見え始めているからである。艦艇の造船能力はその一例である。米国の造船能力を支える人材、技術や資本は今や十分でない。航空機の共同開発・共同生産についても日本の技術レベルに高い評価がつけられるようになっている。
とはいえ、宇宙・サイバー・インテリジェンスやデジタルなどの分野で米国に追いつくにはまだ、相当に時間がかかる。しかし、インド太平洋で事態が変化すれば、米国は日本に多くを依存せざるを得ない状況にあることには変わりない。
日米両国が去る4月10日の日米首脳会談において合意した「未来のためのグローバルパートナー」共同声明は、こうした状況下において一層、緊密な同盟協力を維持するための基盤について合意したものである。
これは改めて、日米同盟の新たな転換点を画することになるであろう。当面の課題は、一つが日米間の指揮・統制システムの改善であり、もう一つが日米のMRO(メンテナンス・リペア・オーバーホール)分野における協力である。いずれも、日米同盟の質を変える重大な課題である。