米Stripeの日本法人であるストライプジャパンは7月18日、都内で最新の決済トレンドや同社の取り組みを紹介するカンファレンス「Stripe Tour Tokyo 2024」を開催した。Stripeは2011年に創業し、スタートアップから大企業までの幅広いビジネス規模に対応したオンライン・対面支払いの処理と、金融プラットフォームおよびソリューションを提供しており、現在は米サンフランシスコとアイルランド・ダブリンのダブルヘッドクォーター体制を敷いている。
Stripeの重点市場である日本
冒頭、挨拶に立ったストライプジャパン 代表取締役(成長・営業戦略)の平賀充氏は「昨年からの来場者と比較すると2倍に拡大しています。東京のカンファレンスはロンドン、パリ次いで3都市目、アジアでは最初の開催都市になり、日本のデジタル経済が確実に活発化するとともに、Stripeのコミュニティが成長している証です」と述べた。
続いて、米Stripe CRO(最高収益責任者)のアイリーン・オマーラ氏にバトンタッチし、グローバルにおけるビジネスの進捗状況を説明した。
まず、同氏は「当社は世界各地のトランスフォーメーションに取り組み、先進を担っています。グローバルで何百万もの企業とパートナーを組み、金融プラットフォームとしてサービスを提供しています。当社のミッションは“インターネットのGDPを拡大させる”ことです。基本戦略はグローバルに展開する自社のエコシステムの中から共通パターンの事例に着目し、ニーズに耳を傾けることです」と力を込める。
同氏によると、世界銀行の調査ではデジタル経済はグローバルにおけるGDPの15%以上を占め、過去10年間に物理世界の実質GDPよりも2.5倍速い成長を遂げ、2025年までには20兆ドルに達すると予測されているという。
こうした状況をふまえ、オマーラ氏は「当社は革新的なスタートアップから確立された成熟企業までに注力し、2023年にはStripeを利用するAI企業数は前年比で倍増しており、Forbesが選ぶ世界が注目すべきAI関連企業トップ50のうち3分の2が利用しています。一方、年間10億ドル以上をStripe上で決済する企業は100社を超え、大手企業の分野でも成長を遂げており、AWS(Amazon Web Services)やBMW、ユニリーバ、ペプシなどです。Stripeにとって日本は重点市場であり、DeNAやソニー・ホンダモビリティなどが採用しています」と説く。
ソフトウェアで定義される金融サービスの確立を目指す
オマーラ氏のプレゼンテーション後には平賀氏が再登壇し、Stripeの現状について解説した。同社は創業当初、オンライン決済の複雑性を解消することに着目してスタートしたが、ユーザー企業と対話を重ねるうちに、決済を取り巻く環境が大きく変化していること、ユーザー企業が抱える課題は決済だけでないことが明らかになった。
そのため、同社はユーザーに必要とされる機能をレイヤで構築し、ソフトウェアで定義される金融サービスの確立を目指すことにしたという。これはどういうことか。
平賀氏は「単純に決済をするシステムではなく、リアルタイムで資金を自由にプログラムできるプラットフォームの提供、AI/ML(機械学習)を活用した詳細なデータにもとづくインサイトの提供、すべてがオンラインに接続される金融サービスの提供を目指し、プラットフォームの構築を進めてきました」と話す。
こうしたことから、同社は日本において決済がコストと思われがちな風潮があるため、膨大な時間をかけていた手作業を効率化するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)に加え、資金の流れを収益化につなげられる高付加価値のサービスを提供することで、日本における決済のイノベーションの促進を目指す方針を示している。
DXが加速する現在の日本は重要な市場であると同時に、成長の速い市場だと同氏は実感しているようだ。実際、2023年にStripeを利用した国内取引件数は前年比55%、日本からの越境決済額は同65%の成長を見せている。
平賀氏は「企業規模の大小にかかわらず、あらゆる業界・ビジネスモデルの企業がStripeを活用することで事業を拡大してるほか、新規ユーザーも続々と増えています。Stripeは、金融サービスプラットフォ―ムとして、グローバルの大手企業に信頼される最先端の決済プロダクトを提供しています」と胸を張る。
加えて、日本に特化したプロダクトや機能も随時提供しており、今回のカンファレンス合わせて日本市場向けに開発した新しいプロダクト・機能が発表。ストライプジャパン 代表取締役(プロダクト・開発)のダニエル・へフェルナン氏が紹介した。
日本市場に特化したプロダクトを発表
へフェルナン氏が発表したのは、決済プラットフォームのオープンエコシステム化、日本市場向けに本人確認を行う「Stripe Identity」のリリース、新たにMastercardへの直接接続、そしてカード分割払いの提供開始の4点だ。
同氏は「過去、数年にわたりStripe APIの年間稼働率は99.999%を維持してきました。これは年換算で5分、1カ月換算で26秒です。昨年のブラックフライデーからサイバーマンデーでは、AmazonやShopifyなど世界中のEC事業者を支援し、4日間で約2.7兆円をトラブルなく、処理しました。現在、当社は世界中で最も信頼できる決済プロバイダーであることを自負しています」と信頼性の高さをアピールした。
オープンエコシステム化と「Stripe Identity」
オープンエコシステム化は、そのほかの決済サービスプロバイダー(PSP:Payment Service Provider)と連携強化の一環として提供を開始する「Vault & Forward API」でユーザー企業はStripeだけでなく、複数の決済ネットワークや決済代行会社との接続を可能とするマルチプロセッシングが可能になる。
同APIを使用するとカード情報をトークン化して、StripeのPCI準拠のVaultに格納し、データをサポートしている決済代行業者、またはエンドポイントに振り分けることが可能。すでに、決済UIコンポーネントの「Payment Element」が対応を開始しており、そのほかのプロバイダーで支払いを処理する場合でも使用できる。
今後、順次サブスクリプション事業向けの「Stripe Billing」や不正対策向けの「Stripe Rader」でもサードパーティのプロセッサとシームレスに連携できるようになるという。
Stripe Identityは平均3秒以下で、eKYC(電子本人確認)を完結して決済を含めてシームレスでスピーディなサービス提供を可能しているほか、マイナンバーカードや書類から顔写真、米国で使用されるID番号などの検証チェックを実施。
AIを用いてユーザーの顔写真付き身分証明書や自撮り写真を分析し、ユーザーの身元を確認することに加え、盗まれた身分証明書を使った不正を阻止する。また、世界110以上の国・地域の公的身分証や運転免許証、パスポートなど政府発行書類に対応する。
インバウンドや海外在住の顧客・消費者の本人確認をスムーズにでき、本人確認書類の情報は暗号化してStripe上に保有するため、ユーザー側は自社管理する必要がないことから、情報漏えいリスクの低減ができる。月額費用・初期費用はなく、従量課金で導入を可能としている。
Mastercardへの直接接続とカード分割払い
一方、これまでのVisa、アメリカン・エキスプレスに加え、Mastercardネットワークに直接接続が可能になった。これにより、Mastercardを利用した決済が迅速かつ安全に実施できるようになるという。
今後、Mastercardで新機能の提供や機能アップデートがグローバルで実施される際もタイムラグなく、日本側でも利用が可能となる。
さらに、クレジットカード決済の分割払いを順次導入していく。分割払いに加え、リボ払いやボーナス払いの3つの支払い方法に対応(今年度中にβ版をリリース予定)し、無料のため導入作業は不要。支払回数を指定できることに加え、高額商品の購入ができた顧客にもアプローチすることが可能となることから、売り上げや顧客層の拡大が見込める。
加えて、2回払いやボーナス払いでも、そのほかの支払いと同じサイクル(4営業日で入金可能、ユーザー企業が指定したスケジュールで支払い)で利用可能なあため、待ち時間を短縮してキャッシュフローの停滞や機会損失を低減できるとしている。
最後にへフェルナン氏は「決済プラットフォームはStripeの心臓であり、コアであり続けます。最終的にStripeを選択してほしいとは考えていますが、戦略的に複数のプラットフォームを利用する形でも構いません。まずはStripeを部分的に取り入れ、テクノロジーを体感してもらればと思います」と述べ、講演を締めくくった。