宇宙用コンポーネントの軌道上実証に特化したサービス
アクセルスペースは7月17日、同社が2022年に発表したAxelLiner(アクセルライナー)事業の新サービスとして、宇宙用コンポーネントの軌道上実証に特化した「AxelLiner Laboratory(AL Lab)」の提供を開始することを発表した。
センサ技術や衛星技術の発展は人工衛星の小型化を推進し、小型衛星や超小型衛星を活用した衛星サービスが世界各地で提供されるようになってきており、今後も小型衛星市場は高い成長が期待されている。
しかし、衛星にイノベーションをもたらすさまざまなコンポーネントは、軌道上で実証されているかどうかが企業の採用に関わってくる一方で、実際に軌道上まで打ち上げ、コンポーネントの性能などを実証する機会を得ることは、資金的にも厳しいそうしたメーカー単独では難しく、相乗りでの実施が主体となることもあり、いつ打ち上げられるのかという点が不透明となり、技術の陳腐化が生じる恐れもあった。実際に、アクセルスペース代表取締役CEOの中村友哉氏らは、2023年に米国のユタ州立大学で開催された世界最大級の小型衛星に関連する学会「Small Satellite Conference(小型衛星会議)」に参加し、AxelLinerの紹介を行ったところ、そうした課題に直面しているコンポーネントメーカーが同サービスに興味を示してくれたとしており、そうしたコンポーネントメーカーのニーズに特化する形でAL Labの提供を決めたと説明している。
顧客の開発負担を軽減
AL Labの最大のポイントは、定期的な小型衛星プラットフォームの打ち上げを提供すること。また、衛星そのものもアクセルスペースが提供する100kg級小型衛星を活用し、ミッション機器として顧客が開発したコンポーネントを搭載。軌道上でのテストシナリオについても、衛星開発・運用の実績を有しているアクセルスペースが協力して策定することができるほか、実際の衛星ならびにコンポーネントの運用も同社に任せることができるため、顧客側は軌道上実証を実際に行いたい機器の開発だけに集中することができるようになり、開発の負担を軽減することができるようになる。
この打ち上げ頻度については、第1回目となる2026年は1回だが、徐々に頻度を増やして行き、基本は年4回の打ち上げを想定(軌道上の実証期間は1年間を予定。その後、軌道を離脱させるとしている)。需要が高ければ、さらに打ち上げ回数を増やすことも考えるとしている。
さらに、コンポーネントの開発に際しては、AL Labサービスの予約受付、契約後のステータス管理、軌道投入後のオペレーション管理が可能なクラウドサービス「AxelLiner Terminal」が提供されるほか、衛星バスの機能を模擬するエミュレータも提供され、コンポーネントと同社の汎用衛星バスとの接続テストなどを顧客だけで行うことも可能としている。
これら基本的なサービスに加え、多数のオプションも用意。例えば、実証機器の様子を衛星に搭載したカメラで動画/静止画で撮影したり、任意のポイントの温度計測などの実施といった軌道上でのサービスのほか、認証取得に必要となる実証機器の軌道上でのデータ提供、同社エンジニアによる軌道上の動作実績レポートをもとにしたレビューの提供、TRL(Technology Readiness Level、技術成熟度)7ないし9相当の軌道上テスト項目の提供ならびにクリア時における動作結果と証明書の発行などが予定されており、中でもTRL9の証明書を取得したコンポーネントについては、将来、同社の小型衛星での活用も検討していくとしている。
第1号案件はASPINAのリアクションホイール
同サービス適用の第一号案件としては、2020年より同社とリアクションホイールの共同開発を進めてきたASPINA(シナノケンシ)がすでに決定済み。同案件は、これまでの共同開発の延長線という意味合いもあり、リアクションホイールそのものの性能評価に加えて、AL Labのサービスそのものの実証という意味合いも込められているとする。
同社代表取締役社長である金子行宏氏は、今回の取り組みについて「リアクションホイールを開発するにあたって課題となったのは、技術の成熟度を高めていくことが必要とされる一方、実際に宇宙の軌道上で実証する機会が限られているという点。新規参入の企業としては、こうしたジレンマを抱えることとなり、実際にASPINAとして営業を行っても、実証結果がないと言われてしまったこともある」と、宇宙産業への新規参入する企業としてのジレンマを身をもって体感したことを強調。AL Labは、そうした実証の機会を得られる取り組みであり、この取り組みを活用することで、早期の実証と販売の拡大につながることが期待できるとしている。ちなみに、現在、共同開発が進むリアクションホイールは完成に向けた大詰めを迎えており、2024年9月に地上実証品が完成予定、同12月には製品としての開発が完了する予定としている。
AL Labでは、これを100kg級の小型衛星のミッション機器として搭載。サービスとして提供される搭載スペースとしては6U~180Uを想定しているが、今回については、上記のようなサービスそのものの実証の意味合いもあり、3U程度のリアクションホイール1台をミッション機器として搭載し、汎用衛星バスに搭載されたリアクションホイールとは別に、アクセルスペースが作成したテストシナリオを軌道上で行って評価する予定としている。
またASPINAでは、並行して200kg級および300kg級のリアクションホイールも開発を進めており(同社はこのほか、アークエッジスペースが進めるCubeSat向け超小型リアクションホイール開発にも参画している)、こちらについては米国のパートナーと協力しながら、軌道上での実証を行うことを計画しており、金子氏は「2024年~2026年にかけて日米で実証を進め、実証が完了次第、順次販売を開始する予定」だと、そのスケジュールを説明する。
なお、AL Labの第2号案件以降については、詳細は明らかにしなかったが、「ポテンシャル案件としてはいくつかあり、すでにこういった実証をしたいといった声をかけてもらっている」と、複数社が興味を示していることを示唆。日本政府としても、宇宙産業の活性化に注力する姿勢を打ち出してきていることを踏まえ、「今後はニーズが急速に増えていくことが期待されるので、早い段階で次の実証機会を設定していきたい」としており、打ち上げに使用するロケットについても、スペースXやロケットラボなど、すでに実績のあるロケットサービス事業者のほか、さまざまな可能性を模索していきたいとしており、その際には、1Uあたり10万ドルを目安に、180Uを埋める形で1社独占提供という形ではなく複数の企業に提供していくことで、ビジネスとしての成長性も確保していきたいとしていた。