富士通は7月16日、クロスインダストリーで社会課題の解決を目指す事業ブランド「Fujitsu Uvance」の進捗について、メディアおよび投資家・アナリスト向けに説明会を開いた。説明会では執行役員 副社長 COOの高橋美波氏が、同社が2月に発表した「AIは私たちのバディとなる」という新たなAIビジョンや、7月に発表したエンタープライズ向けの生成AIフレームワークなどを振り返った。

高橋氏は「データとAIがもたらす高度な意思決定、つまりデータインテリジェンスによってビジネスと社会的なインパクトを両立し、お客様の変革をサポートすること。これこそがFujitsu Uvanceの提供価値」だと強調していた。

  • 富士通 執行役員副社長 COO 高橋美波氏

    富士通 執行役員副社長 COO 高橋美波氏

説明会では、新たな取り組みについても発表された。それは、エンタープライズ向けのLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)開発を手掛けるCohereとの戦略的パートナーシップだ。両社はこのパートナーシップにより、企業の成長や課題解決を支援する生成AIの提供を目指す。

Transformer開発者の一人が立ち上げたCohere

CohereのCEOであるAidan Gomez氏は、以前はGoogleでTransformerを開発していたチームの一人だ。自然言語処理をはじめディープラーニングのさまざまな分野においてTransformerは大きな影響をもたらし、その後のBERTやXLNet、GPTといった技術へつながった。

Cohereは特にエンタープライズ向けのLLMを強みとしており、ビジネスユースに対応するセキュリティとデータプライバシーのための技術開発を進めている。同社のテクノロジーの特徴は企業データを適切に参照するEmbedと呼ばれる埋め込み表現を生成するモデルや、Rerankと呼ばれるRAGの一種(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)などだ。

「LLMの導入は多くの企業で進められているが、コンシューマー向けのモデルでは企業のニーズに対応できない場合がある。当社はセキュリティとプライバシーに注力し、プライベート環境で稼働するLLMを得意としている。CohereのLLMは10カ国語に対応するが、その中でも日本語は特に重要。富士通と協力しながら、日本語でも英語と同等の性能を発揮できるよう開発を進める」と、Gomez氏はコメントしていた。

  • Cohere CEO Aidan Gomez氏

    Cohere CEO Aidan Gomez氏

日本語LLM「Takane(仮称)」の開発に着手

富士通とCohereは戦略的パートナシップに基づき、CohereのLLM「Command R+(コマンド アール プラス)」をベースとした日本語特化のLLM「Takane(仮称)」を共同開発する。この名称は日本語の「高嶺」に由来し、日本語モデルで最高峰の性能を発揮するという目標を意味している。また、スパコン「富岳」にもあやかり、山に関する名前が付けられたという。

  • Takane(仮称)の開発を進める

    Takane(仮称)の開発を進める

富士通はTakaneについて、AIサービス「Fujitsu Kozuchi」において9月より提供開始予定だとしている。将来的には、クラウドベースのオールインワンオペレーションプラットフォーム「Fujitsu Data Intelligence PaaS」や、Fujitsu Uvanceのオファリングを通して提供を広げる予定。

富士通はこれまでにも「ナレッジグラフ」と呼ばれる知識処理技術の研究開発を進めてきた。こうした研究の実績を活用して、企業が保有するデータをナレッジグラフとしてLLMに参照させる「ナレッジグラフ拡張RAG」を7月から、企業規則や法令に準拠するAIを実現するための「生成AI監視技術」を9月から、それぞれFujitsu Kozuchi上で提供開始予定。

富士通執行役員副社長でCTOおよびCPOを務めるヴィヴェック・マハジャン氏は「富士通とCohereのパートナーシップは、1+1が3にもなるようなものだと考えてほしい。Cohereは非常にわくわくする先進技術を持っている。高い精度と性能を持ちながらコンピューティングリソースを抑えた、エンタープライズ向けの生成AIモデルを両社で打ち出していく」と、今後の展開を語った。

  • 富士通 執行役員副社長 CTO CPO ヴィヴェック・マハジャン氏

    富士通 執行役員副社長 CTO CPO ヴィヴェック・マハジャン氏