太陽系や生命の起源の手がかりがあるかもしれない小惑星「ベンヌ」のサンプル(石や砂などの試料)が、地球にもたらされたのは2023年9月のことだった。

2020年に地球を飛び立った、米国航空宇宙局(NASA)の探査機「オサイリス・レックス」が、はるばるベンヌへ赴き、地表に舞い降りてサンプルを回収し、地球に送り届けたのである。

そして、そのサンプルの一部が、もうすぐ日本へやってくる。日本も2020年12月、小惑星「リュウグウ」の岩石を持ち帰ることに成功しており、両者を比べて研究することで、より多くのことがわかると期待されている。

  • オサイリス・レックスが持ち帰ってきたベンヌのサンプル

    オサイリス・レックスが持ち帰ってきたベンヌのサンプル (C) NASA/Erika Blumenfeld & Joseph Aebersold

ベンヌのサンプルからわかったこと

「ベンヌ(Bennu、1999 RQ36)」は1999年に発見された小惑星で、直径は約500m、そろばん玉のような形をしており、地球に近づくような軌道で太陽を回っている。

ベンヌは、炭素や有機化合物、水を多く含んでいる「B型小惑星」に分類される。同じような小惑星に、探査機「はやぶさ2」が訪れた「リュウグウ」のようなC型小惑星があり、B型はC型の一種に分類される。

太陽系はいまから約46億年前に誕生し、長い年月をかけていまの姿へ形づくられていったと考えられている。そのなかで、私たちが住む地球などの惑星は、もとは小さな塵から始まり、それらが徐々に集まっていって形作られていったとされるが、その過程でいったんドロドロに溶けてから固まっているため、元々の物質がどんなものだったのかという情報は失われてしまっている。

一方、ベンヌのような小惑星は、ほぼ生まれたままの姿で存在し続けているため、太陽系ができたころの物質や情報が残っていると考えられており、さらに有機物や水は、生命の起源や地球の海の誕生を探る重要な鍵になるとも考えられていることから、多くの研究者が注目している。

このベンヌに向かって、NASAが2016年に打ち上げたのが「オサイリス・レックス(OSIRIS-REx)」である。2018年12月にベンヌに到着し、まずまわりを回りながら探査をしたのち、2020年10月にベンヌに着陸し、石や砂などのサンプルを採取した。

そして2023年9月、探査機が地球に接近したところで、サンプルが入ったカプセルが切り離され、地球に送り届けた。

探査機の開発当初、研究者たちは約60gのサンプルが手に入ると期待していた。ところが実際にはそれを大きく超える量の採取に成功した。採取の過程で失われてしまったものもあるものの、最終的に121.6gという、まさに濡れ手に粟の大成功だった。

  • オサイリス・レックスが撮影した小惑星「ベンヌ」

    オサイリス・レックスが撮影した小惑星「ベンヌ」 (C) NASA/Goddard/University of Arizona

  • オサイリス・レックスの想像図

    オサイリス・レックスの想像図 (C) NASA

このサンプルは、すでにオサイリス・レックスの研究者チームによって分析が始まっている。これまでの分析により、まずサンプルがリュウグウ同様に真っ黒で、ベンヌから届いたものであることは間違いないこと――つまり地球上の物質が混入するなどしておらず、間違いなくサンプル採取が成功したこと――がわかっている。

また、サンプルの元素を分析したところ、「イヴナ型炭素質コンドライト」と同様の物質からできていることがわかった。イヴナ型炭素質コンドライトは、太陽系の元素存在度比(太陽系の平均的な化学組成)に近い組成をもつ隕石で、リュウグウも同じ性質をもつことがわかっている。

そして、酸素の同位体の分析からも、これらを裏付ける結果が出ている。同位体とは、同じ元素でも質量が異なる元素のことで、軽い酸素、中くらいの酸素、重い酸素の量の比率を調べることで、地球上のものなのか、地球外のものなのかを見極めることができる。ベンヌのサンプルを分析したところ、まず間違いなく地球外のものであり、そしてリュウグウやイヴナ型炭素質コンドライトに非常に近いものであることがわかった。

さらに、ベンヌのサンプルの中に含まれている鉱物を分析したところ、体積の8割くらいが「含水鉱物(水を含んだ鉱物)」でできており、そのほか炭酸塩、硫化鉄、磁鉄鉱、かんらん石などが含まれていることがわかった。この点も、リュウグウとよく似ており、水との化学反応を強く示唆するものだという。

くわえて、オサイリス・レックスの大きな目標のひとつに、探査機が現地で小惑星を観測したデータと、地球に持ち帰ってきたサンプルを分析したデータを比較することがあった。そして、実際に見比べてみたところ、探査機の観測からこういう鉱物がありそうだと考えていた、まさにそのものが、ベンヌのサンプルから見つかり、探査の結果が正しいことを裏付ける成果となった。

一方、驚きもあったという。たとえば、マグネシウムを含むリン酸塩や、かんらん石の存在度は、リュウグウよりも多く、違いがみられるとしている。

また、生命の起源に迫るうえで重要な手がかりとなる有機物の分析も進んでいる。たとえば、有機物をつくるような炭素や酸素、窒素といった揮発性軽元素が多く含まれており、リュウグウと同様に隕石として最高レベルの存在度だという。さらに、固体状の有機物から、アミノ酸のような揮発性の有機分子まで、さまざまな分子の存在が確認できるとしている。また、水素や窒素の同位体組成は、彗星とは異なり、リュウグウや隕石に近い様相であることがわかっているという。

このように、ベンヌのサンプルはリュウグウに近く、とくにイヴナ型炭素質コンドライトが地球外の太陽系ではありふれたものである可能性が見えてきた一方で、鉱物や有機物の特徴には違いもみられることから、今後、両方のサンプルの比較研究が重要となっている。

  • オサイリス・レックスが持ち帰ってきたベンヌのサンプル

    オサイリス・レックスが持ち帰ってきたベンヌのサンプル (C) NASA/Erika Blumenfeld & Joseph Aebersold