一般ドライバーが自家用車を使って有償で客を運ぶ「ライドシェア」について、政府はIT事業者の参入を認める「全面解禁」に向けた結論を先送りした。あくまで既存のタクシーを補完する事業として、国土交通省の思い描く漸進的なペースで物事が進む見通し。まずは4月に一部解禁された制度の運用改善を図る方針だ。
政府・与党内では全面解禁に対する賛否が割れており、慎重な斉藤鉄夫国交相と推進派の河野太郎規制改革担当相との折衝では折り合いが付かず、5月末に岸田文雄首相が仲裁した形の「三者合意」で決着を見せた。現行制度の検証と、全面解禁に向けた新たな法制度の議論を平行させる構えで、合意には「検証や議論に特定の期限は設けない」とも明示した。
その後、政府が閣議決定した「骨太の方針」では「全国で広く利用可能とする」との方針を明記。デジタル行財政改革会議の取りまとめにも同じ文言が盛り込まれたのに加え、「不断にバージョンアップを図る」とした。国交省では、配車アプリの普及していない地方部での導入を後押しするほか、雨天時や大規模イベントでの一時的な需要にも対応できるよう運用を改善する。制度導入が「移動の足」不足解消に実際に寄与したかどうかは、季節や時期の変動を踏まえながら検証する。
今回の政治決着では、民間有識者で構成する内閣府の規制改革推進会議がはしごを外される形になった。さらに、菅義偉前首相や茂木敏充幹事長が全面解禁すべきだとの持論を間もなく展開するなど、政局的な動きも始まっている。
斉藤鉄夫国交相は「運転手と車両の安全、事故が起きた時の責任、働く方の労働環境。この3つが議論の大前提」と全面解禁に反対する。ただ、菅氏がライドシェア議論に火を付けた昨年の段階では、斉藤氏は「菅さんが言っているなら反論できない」と周囲に語っていたとされる。今後の動向は、政権の行方からも影響を受けそうだ。