がん治療法に一石を投じる
「AI(人工知能)を駆使した質の高い個別化医療を推進することで、人々の悲しみを減らし、一人でも多くの人々の幸せを増やしたい」
こう語るのは、ソフトバンクグループ(SBG)会長兼社長の孫正義氏。
SBGが医療系スタートアップの米テンパスAIと合弁会社を設立する。遺伝子検査などの様々な医療データを収集し、AIで解析することで、患者一人ひとりに適した医療の提供を支援する狙いだ。
新会社設立のきっかけとなったのは、孫氏が昨年、父親をがんで亡くしたこと。自身の経験もあっての冒頭の発言である。
日本人の死因の1位は長年、悪性新生物(がん)だ。がんに罹患(りかん)した患者のうち、米国では30%の患者が遺伝子検査を実施しているのに対し、日本では0.7%しか実施していない。孫氏は、がんは正常な細胞が遺伝子変異によって起こる病気だとし、米国と同等水準の遺伝子検査が受けられるようになれば、日本でも患者個人の遺伝子情報に即した最適な医療を実現できるという。
今後はテンパスAIが持つ、米国のがん患者の半数にあたる約770万人分の画像データや病理データなどを活用し、日本の医療の質を向上させる考え。
「この4年で生成AIによるコンピューティングパワーは1千倍になった。それが次の4年ごとに100万倍、10億倍になる。AIは使わなければ損。メディカルサイエンスとデータサイエンスを融合して、メディカルASI(人工超知能)の世界をつくることで、様々な難病を救うことができると思う」(孫氏)
2021年3月期に4兆9879億円の最終利益を計上しながら、22年3月期には1兆7080億円の赤字に陥るなど、業績が乱高下してきたSBG。24年3月期は2276億円の最終赤字となったが、四半期ベースでは2四半期連続で黒字化するなど、「一時の逆風は和らいできた」(機関投資家)。
今後、孫氏は株式の約9割を保有する英半導体設計会社アームを中心に、半導体やAI関連事業に注力する考え。今回の取り組みもその一環で、今後もAI関連の投資が続きそうだ。