愛媛大学は7月9日、月深部の音速に関しては50年来に渡って続いてきた議論の件に関して、「ガーネット」(ザクロ石)を多く含む岩石試料を用いて、月深部の圧力を再現することが可能な「マルチアンビル型高圧発生装置」と、高輝度光科学研究センターが運用する大型放射光施設SPring-8を活用して音速を測定したところ、地震波の伝わり方を再現でき、モデリングと組み合わせた研究から、月マントルにはガーネットが含まれていることを結論付けられたと発表した。
同成果は、愛媛大 地球深部ダイナミクス研究センターのスティーブ・グレオ講師らの研究チームによるもの。詳細は、地球・惑星科学全般を扱う学術誌「Earth and Planetary Science Letters」に掲載された。
月は、誕生してから現在までのおよそ45~46億年の間にコアまで完全に冷えきって固まってしまった死んだ天体と考えられていたが、現在ではまだ完全に冷え切っておらず、生きた天体である証拠が見つかっている。その内部構造は、地球と同じく中心に金属核があり、その上にカンラン石や輝石などの鉱物からなるマントルが地殻下に広がる内部構造を持っていると考えられている。ただし、月には弱い磁場しか存在しないため、地球のようにダイナモ効果が生じていないことから、コアが回転しているほど活発ではないようである。
このような月の内部構造は、月探査で得られたサンプルや深部地震の記録の分析から推定されてきた。数多くの研究が成されてきたにもかかわらず、長い間議論が続いているのが、月マントル深部にあるガーネットの存在について。1月の誕生石として知られるガーネットは、アルミニウムやカルシウム、マグネシウム、鉄、ケイ素などを主に含む鉱物で、このガーネットを含む現実的な月マントル物質の音速は、月深部の地震波観測と適合しているのか未だ答えが出ていないという。
そこで研究チームは今回、その疑問に答えるため、愛媛大 地球深部ダイナミクス研究センターの3機あるマルチアンビル型高圧発生装置のうち、2000トン駆動の分割球型「ORANGE-2000」を用いて、月マントルを模擬したガーネットに富む岩石試料(カンラン石+輝石+ガーネット)を高温高圧下で合成し、高輝度光科学研究センターが運用する大型放射光施設SPring-8において、月深部と同様の圧力・温度条件下で音波の伝搬速度を測定する実験を行うことにしたという。
実験によって得られた結果とモデリングを組み合わせることで、研究チームでは、月マントルを模擬したガーネットを大量に含む試料の音速は、深さ740~1260kmの月深部の地震波および密度分布と一致すると結論づけたとする。さらに、ガーネットをほとんど含まない岩石組成では、これらの深さで観測された月のマントルの地震波速度と密度を説明することができないことも結論づけたとした。
今回の研究成果は、月の組成や形成、内部温度、金属核や現在は存在しない月のダイナモなど、月とその内部の力学に大きな影響を与えるとしている。