日本原子力研究開発機構(JAEA)は7月9日、次世代不揮発メモリの材料として期待される「アモルファスアルミ酸化物」において、不揮発メモリ機能を発現するために必要な微細な構造の特徴を明らかにしたことを発表した。
同成果は、JAEA 物質科学研究センター 強相関材料物性研究グループの久保田正人研究副主幹、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の加藤誠一主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学に関する全般を扱う学術誌「Journal of Applied Physics」に掲載された。
PCなどのメインメモリとして広く活用されているDRAMは揮発性のため、一定時間ごとに記憶を保持するためのリフレッシュ動作が必要であり、電力消費が大きいという問題を抱えている。DRAMの素子を、電源なしでも記憶保持できる不揮発メモリ素子で置き換えることができれば、消費電力を劇的に少なくできることから、研究が盛んに行われている。
ただし、次世代の不揮発メモリとしては、単に低消費電力であるというだけでは済まず、さらに高速応答性や高耐久性(書き換え回数)といった特性も求められている。そうした次世代不揮発メモリの中で、有力候補とされる1つが、「ReRAM」(抵抗変化型不揮発メモリ)。中でも、タンタルの酸化物「Ta2O5」などの遷移金属酸化物が材料として広く研究されている。しかし、メモリ状態のオン・オフが切り替わる際に、遷移金属酸化物材料では、たとえばTaの場合は、5価(Ta2O5)→4価(TaO2)となるように、遷移元素の価数が変わる。そのために、材料物質自体が変わってしまい劣化しやすくなることが課題だった。そのため、書き換え回数には限界があり、DRAMの代替不揮発メモリとすることは困難だったという。そこで研究チームは今回、遷移金属ではないアルミニウムを使ったアルミ酸化物による、ReRAMの研究を進めることにしたとする。
アルミ酸化物によるReRAMには、主に以下の3点の特長がある。
- 高速応答速度や低駆動電流性能
- 稀少元素・有害元素を含まない低環境負荷な材料
- オン・オフ抵抗比が非常に大きいため、省電力でありノイズにも強い
今回の研究では、同じアルミ酸化物でも、結晶だと不揮発メモリ機能が生じないのに対し、アモルファスだと不揮発メモリ機能が生じるのかを放射光を用いて微視的に解明することが目的とされた。
アルミ酸化物のアモルファスと結晶の微細な構造データを比べると、アモルファスは強度が弱くてピークは幅が広いが、結晶は強度が強くてピークは幅が狭い特徴が確認された。これは、結晶では、原子がきれいに並んでいるのに対して、アモルファスでは原子が乱れて分布していることによるものだとする。
これらの微細な構造データの解析により、アルミ酸化物を構成するアルミニウムと酸素の原子ペアの種類ごとに原子間距離を求めることができるという。不揮発メモリ機能を示すアモルファスアルミ酸化物は、不揮発メモリ機能を示さない結晶アルミ酸化物と比べ、原子間距離が短くなっていることが確認された。アモルファスのAl-Al原子間距離は、結晶のそれよりも約0.008ナノメートル短かったという。また、アモルファスのAl-O原子間距離は、結晶のそれよりも約0.01nm短かく、O-O原子間距離は、両者でほぼ同じだったという。このように、非常に微妙な原子間の距離の違いが、不揮発メモリの機能に影響することが突き止められたのである。
不揮発メモリ機能が発現できる理由としては、原子同士の距離が短いことにより、不揮発メモリ機能を生み出す酸素空孔内の電子雲が、酸素空孔クラスタ内に広がりやすいことが考えられるという。このことは、理論計算による微視的構造の予想とも一致するとした。また、原子が乱れて分布することにより、実際に酸素空孔がアモルファスアルミ酸化物に数多く存在していることも判明。このことは、不揮発メモリ機能が生じるには、酸素空孔が重要な役割を果たしていることを示唆しているとした。
今回の研究により、不揮発メモリの機能を向上させるために、どれくらいの構造制御の精度が必要であるのかについて、定量的な値が解明された。このことは、今後、アモルファスアルミ酸化物不揮発メモリの研究開発を進めていく上で、非常に重要な情報だという。アモルファスアルミ酸化物は、稀少元素・有害元素を含まない低環境負荷材料であり、消費電力問題を解決できる電子材料になることが期待されるとしている。