捕食者から回避するために「死んだふり」をするアリモドキゾウムシのオスはメスの性フェロモンを感じると覚醒することを、琉球大学農学部の日室千尋協力研究員(昆虫生態学)らが明らかにした。サツマイモ害虫であるアリモドキゾウムシの駆除には人為的に不妊化して大量に放す不妊虫放飼法が使われているが、性フェロモンをうまく組み合わせることでより効率的な駆除が可能になると期待される。

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    触覚を折りたたみ、脚を硬直させて死んだふりをするアリモドキゾウムシ(左)と死んだふりから目覚めたオス(琉球大学の日室千尋協力研究員提供)

アリモドキゾウムシは、体長6ミリメートルほどのゾウムシ。東南アジアやアフリカ、北米、中南米、オーストラリアなど亜熱帯地域のほか、国内でも奄美諸島、沖縄諸島、小笠原諸島に生息する。サツマイモの害虫として知られ、食い荒らされたイモは黒く変色して悪臭を放ち、苦くなって食べられなくなる。

天敵であるクモや鳥の口に挟まれるような刺激を受けると、触角を折りたたみ、脚を硬直させて動かなくなる「死んだふり」をすることを2001年に共同研究者の岡山大学の宮竹貴久教授が発見している。実際に死んだときの姿とは違うが、死んだふりをすることで天敵の捕食を回避する効果があるという。

宮竹教授は、2023年に穀物の害虫で死んだふり行動が見られるコクヌストモドキについて、個体を互いに呼び寄せる集合フェロモンがあると死んだふりの時間が短くなり覚醒することを発見している。日室協力研究員は「性フェロモンでも死んだふりからの覚醒が促されるのでは無いか」と考えて実験を行った。

カップごとに性成熟をしているオスやメスを一晩いれ、各々が出す匂いを充満させて同居したような条件をつくり、その中にピンセットで挟んで死んだふりを始めたアリモドキゾウムシを投入。死んだふりを継続する時間を調べた。

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    実験の様子。カップにピンセットで挟んで死んだふりを始めたアリモドキゾウムシを投入し、死んだふりを続ける時間をストップウォッチで計った(琉球大学の日室千尋協力研究員提供)

性フェロモンを出す性成熟したメスをいれていたカップにオスを投入する実験を20回繰り返すと、半分は3分以内に死んだふりをやめて覚醒した。性成熟していないメス(性フェロモンを出さない)や性成熟したオス(同)をいれていたカップになると覚醒するオスは減り、何も同居していないと、20分たっても半分以上が死んだふりを続けた。中には2時間以上死んだふりをするオスもいたという。メスでは同居するオスやメスによって死んだふりをする時間が短くなることはなかった。

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    死んだふりをしているアリモドキゾウムシのオスを、性フェロモンをだす性成熟したメスと同居したような条件下に置くと早く目覚めた(琉球大学の日室千尋協力研究員提供)

性フェロモンと似た化学構造を持つ酢酸エチルなどエステル類が充満した中でも覚醒が早くなるか調べたが、死んだふりをしているオスは性フェロモンが充満した中でのみ早く覚醒した。

アリモドキゾウムシは、捕食回避のためずっと死んだふりをすると繁殖のためにメスを探すことができなくなる。捕食回避と交尾相手の探索それぞれにどれだけ時間を割くかはトレードオフの関係にあるが、「メスが出す性フェロモンによって捕食回避よりも繁殖を優先することが初めて明らかになった」と日室協力研究員は話す。

今後はオスの若さや交尾経験が性フェロモンによる死んだふりからの覚醒にいかに影響するかなどを調べ、性フェロモンを用いて既存の不妊虫放飼法の駆除効率を上げるための基礎的な生態学的知見を得ていきたいという。

研究は、岡山大学と共同で行い、日本動物行動学会の国際学術雑誌「ジャーナルオブエソロジー」に6月3日掲載された。

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