埼玉大学、国立遺伝学研究所(遺伝研)、宇都宮大学(宇大)の3者は、椎骨の個性をもたらす「Hox(ホックス)遺伝子」を壊したゼブラフィッシュやメダカを多種類作製し、どの位置の椎骨に異常が生じ、椎骨の個性を決めているかを調査。その結果、魚の2番目の椎骨は「胸椎」と考えられ、魚の最前部の椎骨のみが「頸椎」と類似した性質を持つ可能性を示したとし、哺乳類のほとんどは頸椎を7つもつのに対し、魚は1つしかもたないということは、脊椎動物は陸上に進出してから首を発達させたことが考えられると7月8日に共同で発表した。
同成果は、埼玉大大学院 理工学研究科 生体制御学プログラムの川村哲規准教授、遺伝研の前野哲輝技術専門職員、宇大 バイオサイエンス教育研究センターの松田勝教授、同・岩波礼将特任准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、発生生物学に関する全般を扱う学術誌「Development」に掲載された。
脊椎動物に共通の身体的特徴は、その名の通りに脊椎(背骨)であり、椎骨が連なった繰り返し構造をしている。ヒトにおける各椎骨は前方から、首の骨である「頸椎」、肋骨と接続する「胸椎」、そして「腰椎」、「仙椎」、「尾椎」と分かれている。魚にも肋骨があり、魚も「胸椎」を持っていることはわかっている。
脛骨は、一部のナマケモノやマナティーを除き、ヒトやキリン、クジラをはじめ、ほ乳類におけるその数は7個であることがわかっている一方で、鳥の頸椎の数は、ニワトリが14個であるように、11~25個とほ乳類よりも多い。また、両生類のカエルの頸椎は1つとされ、中生代に生息した首長竜のなかには、70個以上の頸椎を持っていたことが化石研究から示されている。
しかし魚に頸椎があるのかはよくわかっておらず、このことは脊椎動物の「背骨の進化」を紐解く上で非常に重要だという。そこで研究チームは今回、椎骨の個性をもたらすHox遺伝子を壊したゼブラフィッシュやメダカを多種類作製し、どの位置の椎骨に異常が生じ、椎骨の個性を決めているのかを調べることにしたとする。
異なる動物を比較する際には、形態比較が基本とされる。しかし、魚の最前方の椎骨はほ乳類とは形態が大きく異なるため、これまでは比較できず対応関係が不明だったという。
マウスの研究から、Hox遺伝子がそれぞれの椎骨の個性をもたらすことが示されていた。Hox遺伝子群とは、動物の発生において、身体に位置情報をもたらす(座標のような)役割を持つ重要な遺伝子群のことだ。ヒトをはじめとする脊椎動物においてHox遺伝子が存在することが明らかにされている。たとえば、Hoxc6は最も頭部側の胸椎(肩の位置)を決めていることがわかっている。ゼブラフィッシュは5番目の椎骨から、肋骨と接続する「胸椎」を持つ。では、より頭部側にある1~4番目の椎骨は「頸椎」なのだろうか?
その疑問を解明するため今回の研究では、Hoxc6遺伝子を破壊したゼブラフィッシュが作製され、詳細な調査が行われた。その結果、3、4番目の椎骨に異常が生じたという。つまり、ゼブラフィッシュの3、4番目の椎骨は、もともとは「胸椎」であり、肋骨が変形して「胸椎」と判断できないほど変化したことが示唆されるとする。さらに、さまざまなHox遺伝子を破壊したゼブラフィッシュやメダカが作られ、詳細な解析が行われた結果、最前部の椎骨のみが、頸椎と類似した性質を持つ可能性が示唆されたとした。
上述したように、一部を除けば、ほ乳類は7つの脛骨を持つ。マウスも例外ではなく7つ持っており、その脛骨の個性付けをするHox遺伝子がいくつか示されている。しかし、ゼブラフィッシュでも同じHox遺伝子を持っているが、椎骨の個性付けには関与していない可能性が示唆された。さらに今回の研究から、魚は頸椎と類似した椎骨を1つしか持たない可能性が推測されたとする。今回の研究成果から、脊椎動物は陸上に進出した後、上述したように頸椎の数を増加させ、複雑な機能を持つ「首の構造」を発達させたことが示唆されるとしている。