東京大学(東大)は7月5日、ビタミンCの体内への取り込みを担う膜タンパク質「SVCT1」がビタミンCを輸送する過程における複数の状態の立体構造を決定することに成功したと発表した。

  • 異なる輸送状態で決定されたSVCT1二量体の全体構造

    異なる輸送状態で決定されたSVCT1二量体の全体構造(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 理学系研究科の濡木理教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

ビタミンは人体に必要な栄養素で、後ろにアルファベットが付けられて分類されており、幾種類もあることが知られている。それらの中でもビタミンCは世間一般によく知られた栄養素だろう。ビタミンCは正式には「L-アスコルビン酸」といい、コラーゲンの生合成や酸化ストレスへの応答といった多くの生化学的プロセスに用いられている。

ヒトは体内でビタミンCを生合成することができないため、食物を通して体外からビタミンCを摂取する必要がある。トランスポーターとは、生体膜に発現し、膜を介した物質の輸送を担う膜タンパク質の総称で、ビタミンCのトランスポーターが小腸などで発現する「SVCT1」だ。これまで、SVCT1により体外から体内へとビタミンCが取り込まれることはわかっていた。しかし、SVCT1がどのようにしてビタミンCを認識しているのか、またどのような動作機構によってビタミンCの輸送を実現しているのかといった、詳細な分子機構は未解明だったという。

そこで研究チームは今回、液体窒素(-196℃)冷却下でタンパク質などの分子に対して電子線を照射し、試料の観察を行うためのクライオ電子顕微鏡を用いた“単粒子解析”によって、SVCT1がビタミンCを輸送する過程で形成する複数の状態の立体構造を調べることにしたとする。なお単粒子解析とは、クライオ電子顕微鏡で取得されたデータから、生体高分子の立体構造を決定する解析手法のことである。

今回の研究では、SVCT1がビタミンCを輸送する過程で形成する複数の状態の立体構造が決定された。細胞内側に向かって開口している内向き開状態の構造では、「基質結合ポケット」(トランスポーターの内部にある、輸送する物質(基質)を結合する部分のこと)でビタミンC分子の両側にそれぞれ1分子ずつナトリウムイオンが配位されていることがわかり、これらがビタミンCの負電荷を中和することによって、SVCT1との結合を安定化していることが判明。また、ビタミンCの近傍には複数の水分子が存在し、基質結合ポケット全体に広い水素結合ネットワークを形成していることも明らかにされた。これらの複数の相互作用によって、SVCT1はビタミンCを安定して結合し認識していることが明らかになった。

  • ビタミンCが結合した内向き開状態SVCT1の構造とビタミンCの認識機構

    ビタミンCが結合した内向き開状態SVCT1の構造とビタミンCの認識機構(出所:東大Webサイト)

さらに、新たに決定された閉状態の構造と内向き開状態の構造を比較すると、SVCT1二量体の界面が回転するように大きく動いていることも突き止められた。それぞれの状態の二量体形成を減少させる変異が導入されたところ、二量体量の減少と同時にビタミンCの輸送活性も減少することがわかり、SVCT1がビタミンCを細胞内に輸送するためには、この新規の動作機構を介して2つの異なる二量体状態の両方を行き来することが必要であることが示唆されたとした。

  • 複数構造の比較により明らかになったSVCT1の構造変化機構

    複数構造の比較により明らかになったSVCT1の構造変化機構(出所:東大Webサイト)

また今回の結果に基づいて、単量体同士が互いに回転するように動く新規の構造変化モチーフが提唱された。そして、既存のモチーフに加え、新たにこれを伴うSVCT1の「基質輸送サイクル」(トランスポーターが物質を輸送するために繰り返す周期的な構造変化のこと)の新規モデルが考案された。

  • SVCT1のビタミンC輸送サイクル

    SVCT1のビタミンC輸送サイクル(出所:東大Webサイト)

研究チームは今回の研究成果について、トランスポーターの輸送機構に関する基礎研究の新たな進展を促すと共に、SVCT1を標的とした新規医療開発に向けた構造基盤を提供するものとしている。