東京大学(東大)、京都大学(京大)、東京学芸大学(学芸大)、東京工業大学(東工大)、静岡大学、金沢大学(金大)の6者は7月5日、南太平洋アイツタキ島の「マントル捕獲岩」を用いて、海洋域のマントルで「小スケール対流」が発生していることを明らかにしたと発表した。
同成果は、東大 大気海洋研究所の秋澤紀克助教(学芸大 非常勤講師兼任)、同・小澤一仁特任研究員、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻のウォリス サイモン教授、同・大嶋ちひろ大学院生(研究当時)、京大大学院 人間・環境学研究科の小木曽哲教授、京大 理学研究科の三宅亮教授、同・伊神洋平助教、同・安本篤大学院生(研究当時)、学芸大 教育学部の永冶方敬講師(東大大学院 理学系研究科 客員共同研究員兼任)、東工大 理学院の石川晃准教授、同・藤田遼大学院生(研究当時)、静岡大 理学部の川本竜彦教授、金大 理工研究域の森下知晃教授、同・田村明弘研究員、同・荒井章司名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本地球惑星科学連合が刊行する宇宙や惑星科学と関連する分野全般を扱う欧文学術誌「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載された。
海洋プレートができる海嶺からある程度の距離が離れた海洋プレートの直下では、数百kmスケールでマントルが対流していると考えられており、それは小スケール対流と呼ばれている。同対流は地球の冷却を促進させる効果があるため、その詳細を知ることは地球の冷却史を正確に推定する上で重要とされる。しかし、同対流の存否は地球物理学的観測やアナログ物質を用いた実験、物理モデルから議論されてきているのが現状で、物質的な実証はこれまでなされていなかったとのこと。そこで研究チームは今回、物質的な実証を試みたという。
今回の研究では、太平洋のサモアやポリネシアに近いクック諸島・アイツタキ島に産するマントル捕獲岩に見られる特異な細粒鉱物集合体が、「ザクロ石」(マントル物質の中で赤色を示し、アルミニウムやカルシウム、マグネシウム、鉄、ケイ素などを主に含む鉱物で、ガーネットとも呼ばれる)が分解してできたものであることを証明したとする。なおマントル捕獲岩とは、欠片(かけら)としてマグマに取り込まれて地球表面に運ばれた地球深部マントルのこと。ザクロ石はマントル中では高圧下(~70km以深)でのみ安定であるため、ザクロ石が含まれていた事実から地球深部情報を保持していることが期待されるとしている。
また、発見されたザクロ石分解物中にはスピネルが包有されており、ザクロ石分解物周囲はカンラン石が多く、直方輝石や単斜輝石が少ないことが観察された。その組織的な特徴から、マントル捕獲岩が圧力上昇=下降運動を経験し、スピネル+直方輝石+単斜輝石→カンラン石+ザクロ石という鉱物相変化が起こったことが検証された。
その一方で、同岩石サンプルの直方輝石には、元素拡散に伴う粒子中心から端に向かう化学組成変化が認められたという。その化学組成変化は、温度-圧力変化に応答し、鉱物が化学的平衡を保つために連続的に起こったものであり、元素拡散モデリングを適用することで、0.24cm~0.6cm/年の圧力減少=上昇運動速度が推定された。そして、マントル捕獲岩がマグマによってアイツタキ島に運ばれる途中で、急激な圧力減少を経験することで細粒鉱物集合体に分解してしまったということが解明された。
研究チームは以上の結果から、太平洋プレートが形成されて1億年ほど経過した海洋マントルでは小スケール対流が起こっており、その下降運動と上昇運動が今回の研究で使用されたマントル捕獲岩に記録されたことが確認されたとする。そして今回の研究を通して、海洋マントルにおける小スケール対流が検出されたことにより、その対流開始時期が海洋プレート形成後1億年以前であることがわかるため、地球冷却モデルの高精度化への貢献が期待されるとしている。