金沢大学(金大)と津田駒工業は7月5日、植物に含まれる高分子「セルロース」に化学修飾を施した樹脂「植物プラスチック」を1年間に3000種類(システム稼働日を年間300日間として)、全自動で製造可能な合成するロボットシステムを開発したことを発表した。
同成果は、金大 理工研究域 生命理工学系の髙橋憲司教授と津田駒工業による共同研究チームによるもの。
髙橋教授らが、科学技術振興機構(JST) 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の支援を受けて、金大内に立ち上げたCOI-NEXTプロジェクトでは、達成目標として「社会循環が可能な素材」、「消費されるほど環境が豊かになる素材」、「消費者の行動変容を促す素材」の開発が掲げられている。そうした目標を達成するためには、出口用途に応じたさまざまな種類の素材の開発が必要だという。
たとえば、農業で使われている肥料カプセルやマルチシートなど、環境放出が考えられる製品では、生分解性を持たせ、土壌や海洋中で樹脂が微生物によって分解されやすくし、肥料や栄養となる樹脂を作ることが目標とされている。また、それは海洋でのマイクロプラスチック問題などの解決にもつながると考えているとする。
また生活で利用される樹脂では、マテリアルリサイクル(使用済みの材料を、化学的な処理を用いずに機械的な処理のみでリサイクルする技術)によって長く利用することを前提とし、樹脂の劣化に応じてケミカルリサイクル(使用済みの材料を化学的な処理により分解し、新たな材料の原料とすること)による樹脂の再生・循環可能な素材の設計が行われている。その素材開発に必要な樹脂物性データベースは、石油由来の高分子材料でさえ極めて少なく、植物由来の高分子材料に至っては皆無だという。
そこで研究チームは今回、植物由来材料の物性データベースを構築するために必要な、植物を原料とする樹脂の自動合成ロボットシステムを開発することにしたとする。
今回開発された自動合成ロボットシステムは、素材の開発でボトルネックとなる植物由来樹脂の合成を自動化することで、開発速度を極めて加速させることが可能だという。合成された樹脂は物性が評価され、文部科学省が進めているデータベースなどへの登録が行われる。登録されたデータは、機械学習の教師データとして、樹脂開発に向けて新しい機能性樹脂の予測・設計に利用されるとする。
今回の自動合成ロボットシステムは、一度に5サンプルの植物由来樹脂を合成することが可能であり、1日に2セット運転することで10サンプルの合成が可能だ。つまり、年間に300日間自動合成ロボットシステムを稼働すると、3000サンプル/年が可能だ。
一般的に報告されているセルロースなどの化学修飾方法は、カルボン酸無水物や酸クロリドを用いた不均一な条件で反応するため、置換度などの制御が困難だった。今回の自動合成ロボットシステムでは、セルロースを「イオン液体」(イオンから構成された融点の低い有機塩)に完全溶解させた均一条件下で反応を行うため、エステル化の置換度を制御しながらまったく新しい誘導体を合成できるという。
研究チームではまず、セルロースを母材とした樹脂の開発から進め、未利用の農業副産物やタンパク質などの誘導体の物性データをデジタル化し、機械学習から新しい素材の開発を行うとする。今後蓄積される植物由来樹脂のデータベースは、「石油資源に依存した社会」から脱却し、「植物を資源とする循環型社会」への変革に活用されることが期待されるとしている。