米中の間で先端半導体や電気自動車(EV)を巡る覇権競争がエスカレートする中、中国政府は希少金属であるレアアースの管理規制を強化する姿勢を示している。

中国共産党の機関誌である人民日報が6月末に報じたところによると、世界最大のレアアース生産国である中国の李強首相が6月末、レアアースの所有管理は国家が行い、如何なる組織や個人もレアアースを占有・破壊できないと定めたレアアース管理条例に署名し、それが10月1日に施行されるという。

日本は輸入するレアアースの多くを中国に依存しているが、レアアース管理条例は日本などレアアースを中国に依存する国々をけん制する狙いがあろう。2010年9月、日中が領有権を争う尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突した際、中国は日本向けのレアアースの輸出を一方的に停止したが、中国は関係が悪化した国家に対して一方的な輸出入規制を発動するなど、諸外国の間では中国による経済的威圧に懸念の声が広がっている。

中国は近年、関係が冷え込む台湾とオーストラリアに対して、台湾産のパイナップルや柑橘類、オーストラリア産の牛肉やワインなどの輸入を一方的に停止したことがあるが、日本との間でも懸念が広がっている。バイデン政権が一昨年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止するべく、同分野での輸出規制を開始した後、日本が米国と同調する形で半導体の製造装置など23品目で中国への輸出規制を始めたことに、中国は日本への不満も募らせている。その後、中国は日本が輸入の多くを中国に依存する希少金属であるガリウムやゲルマニウムの輸出規制を厳格化し、日本産水産物の輸入を全面的に停止した。日本産水産物の輸入停止は大きな問題となったが、それだけ中国の対日不満が強いという証になろう。

こういった状況に、中国は次にどのような経済的威圧に打って出るのかとの不安が日本企業の間で広がっている。では、これまでのケースから中国はどういった条件で貿易規制の対象品を選定しているのか。これについては満場一致の回答は難しいが、以下2点を意識していると考えられる。

1つは、貿易相手国がどういった品目でどれほど中国に深く依存しているかという点だ。2010年9月の衝突事件の際、中国はレアアースの輸出停止という行動に打って出たが、これは日本がその多くを中国に依存しているという事実を意識しての行動だろう。また、ガリウム・ゲルマニウムの輸出規制、日本産水産物の全面輸入停止といった措置の背景にも、中国の先端半導体分野における対日不満があろう。日本産水産物の全面輸入停止では、中国にホタテの多くを輸出してきた水産加工会社などが大きな衝撃を受け、今日では米国や東南アジアなどへの輸出を強化し、中国一辺倒の輸出体制から脱出しようとしている。

もう1つが、貿易相手国からの輸入を停止しても経済的損害が少なく、他国からの輸入で代替できるかという点だ。中国は台湾産の果物類、オーストラリア産のワインや牛肉などの輸入に一方的な制限を設けたが、これらの輸入が滞ったからといって中国の経済や社会に大きな損害を生じるとは限らず、東南アジアや米国、欧州などから代替的に輸入することも十分可能である。一方、先端半導体やAIなどは中国にとって重要な戦略物資であり、それらに関連する輸入は自らで止めるとは考えにくい。言い換えれば、中国が必要とする品目の多くを所持、製造できるような体制を整備できれば、それが抑止力となり、中国からの経済的威圧に遭う可能性を低くできると言えよう。