京都大学(京大)は7月3日、糖尿病領域の大規模ランダム化比較試験のデータを用いて、糖尿病患者における厳格な血糖・血圧管理の治療効果(心血管疾患の発症リスク)が、独居か否かの居住形態によって異なることを明らかにした。
同成果は、京大 医学部の清原貫太学部生、同・大学大学院 医学研究科の井上浩輔准教授(京大 白眉センター)、同・近藤尚己教授、同・石見拓教授ら研究チームによるもの。詳細は、米国心臓協会の心血管/脳血管疾患に関する全般を扱う学術誌「Journal of American Heart Association」に掲載された。
近年、世界中の特に先進国において糖尿病の罹患者数が増加傾向にあり、糖尿病にかかりやすいとされる日本人は、約1000万人が罹患していると推定されている。また、糖尿病患者は心血管疾患を発症するリスクが高く、同疾患は死因の3分の2を占めている。糖尿病患者の心血管疾患発症を予防するためには、そのリスク因子である血圧と血糖のコントロールが極めて重要とされる。
また、独居か否かという居住形態は、超高齢社会の先頭を走る日本はもちろんのこと、世界が抱える社会問題であり、過去の研究では心血管疾患発症のリスク因子であることも示されていた。研究チームの井上准教授らが2022年に発表した研究によれは、非糖尿病患者において厳格な血圧コントロールの治療効果が居住形態(独居か否か)によって異なることが示されたという。一方、糖尿病患者に対するエビデンスは皆無であり、とりわけ厳格な血糖管理・血圧管理の両方が施行された際に居住形態がどの程度影響するかについては解明されていなかったとする。
そこで研究チームは今回、北米の糖尿病患者を対象として実施された、厳格な血糖管理(HbA1c<6%)・血圧管理(収縮期血圧<120mmHg)が、標準治療(HbA1c<7.0~7.9%、収縮期血圧<140mmHg)に比べ、心血管疾患発症をどの程度抑制するかを検討した大規模ランダム化比較試験「ACCORD-BP」の参加者を対象とし、糖尿病患者において厳格な血糖・血圧コントロールの治療効果が居住形態によって異なるのかの検討を行うことにしたという。
今回の研究では、ACCORD-BP試験に参加した糖尿病患者4731人が対象とされ、解析が行われた。平均4.7年間の追跡期間において、他者と暮らす患者では、標準治療を行った場合と比較して厳格な血糖・血圧管理を行った場合の心血管疾患発症リスクがハザード比0.65と低いことが示されたとする。一方で、独居患者では、厳格な治療と標準治療の間で心血管疾患発症リスクに違いが認められなかったとした(ハザード比0.96)。この結果は、糖尿病患者において、居住形態が血糖・血圧管理の心血管疾患発症抑制効果に影響を与える可能性を示唆しているとした。
今回の研究結果は、糖尿病患者の治療において、臨床的な情報のみならず、居住形態など、社会的要因にも着目する必要があることが示唆されているとする。今回の結果が得られた背景としては、薬物療法・食事療法・運動療法への取り組み方や周囲からのサポートが影響していることが推測されており、今後、治療効果が居住形態で異なるメカニズムの解明が求められるとした。また、居住環境は国や地域の文化と強く結びついているため、米国のデータで得られた今回の知見が、日本においてどの程度一般化できるのかについては、さらなる研究が必要としている。